災害対応の構造変革を目指す応急対応DXの研究開発

特集:災害対策のDX 化の現在と未来

防災科学技術研究所 災害過程研究部門 部門長(関西大学社会安全学部 教授)
永松 伸吾
2022年12月1日

 

 近い将来に我が国では首都直下地震や南海トラフ巨大地震などの巨大災害の発生が確実視されているところです。しかし我が国の災害対応には依然として多くの課題が残されており、これらの解決は急務と言えましょう。
 第一の問題は、自治体職員の災害対応経験の乏しさに起因します。毎年のようにどこかで大きな災害が起こっているように感じますが、約1700 の市町村のそれぞれでみれば災害対応は極めてまれな経験です。しかも、職員が数年で様々な部署へと移動していく、我が国特有の人事ローテーションを前提とす
れば、経験を通じて職員の対応能力が高まっていくということはほとんど期待できません。
 第二の問題は、災害対応のやり方がばらばらで、相互応援が困難であるということです。自治体間の相互応援については、近年総務省なども積極的に支援しているところではありますが、自治体により避難所の呼び方すら統一されていなかったり、災害対応職員の職名や権限についても統一されておらず、複数の自治体が連携して活動する際には毎度のように混乱を繰り返しています。
 第三の問題は、災害対応の記録が残らず検証・改善が困難であるという点です。多くの自治体では災害対応後に検証委員会を立ち上げるケースも増えてきています。しかしながら、その検証のための対応記録が完全な形で残っていることはほとんどありません。重要な連絡は電話など音声によるものとなっており、関係機関の情報共有は現在でも紙やFAX に頼っています。従って、こうした記録を分析可能な形に整理するためには膨大な労力を必要としています。
 そこで、防災科研では、災害対応のDX 化を通じて、これらの問題を解決し、持続的な市町村の災害対応能力の向上を図る研究開発に今年から取り組んでいます。具体的には、以下のようなサービスをクラウド上で提供します(図1)。
①ハザード情報や地域の脆弱性情報を基に、統合シミュレーションによる、災害過程の予測を行い、そこから必要な業務量と必要な資源量を見積もります。
②自治体が行うべき標準的な災害対応業務をシステム上で提示し、災害対応に不慣れな自治体職員でも対応が可能となると同時に、それにより複数組織の協働も可能にします。
③関係機関への応援要請や業務指示もクラウド上で行うことによって、災害対応の記録が自動化され、そのデータは次の意思決定にフィードバックされるとともに、次の災害対応に向けた訓練等に活用されます。
 この研究開発は、東京大学生産技術研究所において沼田宗純准教授の開発するBOSS を活用して進めております。また防災科研の開発するSIP4D やDDS4D とも接続される予定であり、市町村、都道府県、そして国の全てのレベルにおいて、我が国の災害対応を支える一気通貫のシステムの完成を目指して取り組んでいるところです。

 

図1 応急対応DX のシステム概念図