災害対策基本法改正-2004年からの歩み

特集:災害対策基本法制定 60周年

田中淳
2021年12月1日

 令和3 年5 月に災害対策基本法が一部改正された。その主な内容は、1)避難勧告・指示から避難指示への一本化、2) 高齢者等避難行動要支援者に対する個別避難計画作成の努力義務化、3) 災害発生のおそれ段階での国の災害対策本部設置の制度化である。3 番目のおそれ段階での国本部は、大規模水害や火山噴火災害、南海トラフ地震に関する臨時情報発表時に極めて重要であり、その運用の具体化が求められることのみ付して、ここでは最初の二つについて背景を紹介したい。 
 両改正点とも、2004 年に発生した新潟・福島豪雨災害、福井豪雨災害ならびに台風23 号による豪雨災害時の検討に原型をみることができる。すなわち避難をどのように円滑にするか、そのために市町村からの避難情報の発出をどう促進するか、犠牲が多かった高齢者を災害からどのように守るかである。当時は避難勧告・指示の発出を躊躇する事例が多く見られた。そこで、避難準備情報を導入することで敷居を下げ、市町村の躊躇を低減することとなった。予測の不確実性が高い段階で避難準備情報を発出することになるため、法的な位置づけをせずに運用上の情報に留めたこと、高齢者に安全なうちに早めの避難を呼びかける情報としても利用し、避難準備(要援護者避難)情報として2 つの性格を担うこととした。
 その後も、具体化を図るために、避難勧告等発令の客観的な基準の規定の考え方や災害時要援護者等の避難支援計画の策定やその対象者に関する個人情報の地域での共有方法の考え方などがガイドラインとして公表され、市町村に展開されていった。
 他方、河川はん濫や火山噴火に関する避難情報は、災害の原因となる外力の強さではなく、避難行動やその判断の契機とすべきという観点からレベル化が導入された。さらに、2009 年に発生した佐用町水害等で避難途上に亡くなるという事例がみられたことから、高層階などその場に留まる方が安全な環境では、小学校等へ避難をせずに2 階以上の高いところで命を守る「垂直避難」が積極的に位置づけられ、最終的には東日本大震災発生後の平成24 年および平成25 年に災対法の一連の改正がなされ、その中で避難指示に関し安全確保措置(屋内待避等)が位置付けられた。な
お、この改正では、要援護者対策の入り口である要支援者台帳の作成が市町村に義務化された。
 この垂直避難の制度化によって、避難行動は、避難の準備-小学校等への安全な水平避難-危険性はあるが緊急的な垂直避難という3 段階が用意された。この垂直避難の判断に資する家屋倒壊等氾濫想定区域や浸水継続時間を示すハザードマップも策定・公表されるようになった。この施策が、警戒レベル3 で避難の準備、レベル4 で水平避難、レベル5 で垂直避難と対応させることにつながる。
 これらの国の検討の流れは、実は先進的な市町村の取り組みによっている部分も少なくない。要援護者対策について、福祉専門家の力を借り、個別に避難計画を立てていった先進的な市町村の取り組みが、諸般の問題を解決し、施策を進め得ることを示し、今回の改正に強く寄与した。また、少なくとも河川はん濫の多くの事例では避難勧告が発令され、その後に避難指示が出されるようになってきていたことが、今回の改正へとつながったのだと思う。現場に課題と解決方策がある。その先進的解決方向をどの段階で、どのように全市町村に広げるか。この視座は、国の制度設計には欠かせない。