大震災後の火山防災対策

特集:東日本大震災から10年-防災対策は何が変わったか?

 東京大学名誉教授 藤井敏嗣
2021年3月1日

 大震災を契機に火山防災分野で変化したものとして、原子力発電所の設置と再開に関する火山噴火対策のガイドライン作成がある。火山国でありながら、火山噴火に対するガイドラインは初めてで、福島第一原発事故を受けて、原子力発電所の自然災害対策の不備を補うものとして作成された。しかし、このガイドラインは火山噴火がモニタリングによって予知できるという前提で作成されたことから、多くの火山研究者の批判を浴びた。この批判を受けて、規制庁は産総研を通じてカルデラ噴火の研究に多額の予算を投入したことから、不明な点の多かった日本各地のカルデラの研究が進んだが、噴火の予知につながるような成果には至っていない。
 大震災以降の火山防災分野での大きな変化は、2014年の御嶽山噴火がきっかけであった。中央防災会議のワーキンググループの提言を受けてさまざまな対策が行われたが、その中心は活動火山対策特別措置法(活火山)の改正である。改正活火山法では、国が常時観測火山周辺の自治体を火山災害警戒地域に指定し、各火山に火山防災協議会の設置を義務付けた。必須構成員の中に火山専門家を含めることになり、火山防災協議会としてハザードマップの制定、噴火警戒レベルの内容検討、避難計画の策定などを行うことになった。
 また、内閣府には火山防災対策会議が設置され、御嶽山噴火後の火山防災対策のフォローアップを行うと共に一元的な火山防災対策の実現を模索している。
 御嶽山噴火を受けて、文部科学省は、次世代火山研究・人材育成プロジェクトを10年計画で推進することになり、水蒸気噴火が卓越する火山に特有の地下構造が明らかになるなど着実に成果をあげつつある。また、本プロジェクトでは、全国の地球科学関連の大学院と一部の自治体がコンソーシアムを形成し、全国連携で火山人材の育成を行っている。現在までのコース修了者のかなりの部分が、火山分野を含む地球科学関連の職に就いたが、大学の教員定員の削減を受けて火山関連の研究者ポストは増加していないことから、養成した人材の火山専門家としての活躍に関して課題は残る。
 気象庁では火山情報伝達の仕組みが大きく変更になった。新たに噴火速報が制定されたほか、噴火警戒レベルの引き上げ基準の精査と公開などが決まり、今年度中には噴火警戒レベルを運用中のすべての火山でレベル引き上げ基準の公表が行われる予定である。また、火山関連職員の大幅定員増が行われたが、火山専門家を採用しない方針は変わらず、諸外国の火山監視機関とは大きく異なったままである。
 このように、大震災以降、火山防災対策でも進展がみられた。しかし、わが国の最近の噴火は無人島である西之島の噴火を除くと、死傷者が発生した御嶽山噴火を含めごく小規模なものがほとんどで、居住地に被害をもたらす噴火は2000年の有珠山や三宅島での噴火以降の20年間、ほとんど発生していない。このため火山専門家ポストが増加しないことに加え、住民避難を伴う火山災害の場を経験したことのある火山専門家は減少していることから、今後予想される大規模噴火災害に際して行政に適切な助言を与えることができるかどうかが大きな課題である。