東北地方太平洋沖地震と最大クラスの津波想定

特集:東日本大震災から10年-防災対策は何が変わったか?

古村孝志 地震研究所 災害科学系研究部門
2021年3月1日

10年前の3月11日。情報学環10階のCIDIRで激しい揺れに怯えながら、地震研究者の自信がバラバラと崩れ落ちるのを感じた。宮城県沖では、M7級の地震が約40年周期で規則正しく起き、M9超巨大地震は起きない。超巨大地震は、南海トラフなどプレート沈み込み角が小さい場所で起きる。この「比較沈み込み学」を授業で何度も説明するうちに、地震の真実と思い込んでいた。2日前にM7.3の地震が三陸沖で起きた時も、前震とは露にも疑わず、想定宮城県沖地震(M7.5)の半分が起きたので、危険度は下がったと都合良く解釈した。

そもそも、自然現象は非常に多用で複雑だ。科学の道筋は、複雑現象の一面を簡略化したモデルで表現することから始まる。ところが研究が進むにつれ、いつの間にかモデルが真実であるかのように思い込み、モデルの一人歩きが始まる。研究の過程でいつも陥る罠だ。

歴史地震として知られているのは、『日本書紀』以後の1000年のみ。遺跡から痕跡を調べる地震考古学も5000年が限度だろう。この限られた期間のデータから地震の多様性を理解し、そして将来起きうる地震を理解するには無理がある。だから地震防災計画では、過去に起きた規模の地震はもちろん、各地域で力学的に起きうる最大クラスの地震も考慮する必要がある。これが東日本大震災の辛い経験から学んだ大切な教訓だった。

内閣府防災の「南海トラフの巨大地震モデル検討会」では、地震津波被害想定の抜本的見直しに向け、最大クラスの地震モデルの考え方を整理した。東北地方太平洋沖地震の巨大津波は、M9地震の大きな断層運動に加え、日本海溝寄りの浅部プレート境界の一部が50メートルも大きくずれ動いたことが原因だった。この「超大すべり」は、南海トラフでも起きる可能性がある。こうして2013年11月に出された最大津波想定は、高知県黒潮町で34.4メートル、そして広い地域で従来想定が3〜5倍に高まった。

だが、出された最大クラスの想定は扱いがとても難しかった。九州〜房総沖の津波堆積物調査からは、過去5000年間に最大クラスの津波痕跡は見つかっていない。100〜200年周期で繰り返す南海トラフ地震において、最大クラスの起きやすさの目安が示されなければ、せっかくの想定結果の扱いに困る。海洋プレートが年間4センチ沈み込むとして、50メートルの超大すべり分をため込むには50/0.04=1250年以上かかることは分かる。途中でスロー地震が起きてひずみを解放すれば、さらに長い年月が必要だ。だが、極めて低い発生頻度とはいえ、何千年も起きていないならば、次がその番かもしれないからだ。

これに一定の答えを出すために、南海トラフ沿いで海上保安庁や海洋研究開発機構が進める海底地殻変動観測が重要な鍵を握る。プレート境界のひずみの出入りを日々モニターする観測データが蓄積すれば、地震発生危険度と起きうる地震ハザードの幅を絞り込むことができるようになるはずだ。