トータルとしてどうなのか

特集:田中淳センター長のご退職に寄せて

気象庁観測部長 弟子丸卓也
2020年3月1日

 気象庁では平成18年度より田中淳教授に気象業務の評価に関する懇談会に委員として、また、平成20年度からは同懇談会の座長を務めていただき、気象行政に関して幅広くご助言をいただいている。加えて、田中教授にはこの間気象、地震、津波、火山など気象庁の各業務分野の検討会で座長などを務めていただき、幅広い視野と高い見識に基づく数多くの貴重な助言、ご指導をいただいてきた。ここに改めて感謝申し上げたい。
 平成の後半、我が国は多くの顕著な自然災害に見舞われてきた。竜巻や小河川の急な増水など発達した積乱雲にともなう時空間的に極小スケールの現象による災害、逆に、平成23年の東北地方太平洋沖地震と津波、同年の台風第12号による豪雨災害などの巨大スケールの現象による災害も発生した。メソスケールの線状降水帯による災害も繰り返し発生している。
 度重なる自然災害に対し、気象庁では様々な技術の高度化と情報の改善に努めてきた。気象に限っても、数値予報の精度は着実に上がり、台風の予測精度も向上している。気象警報は市区町村ごとに発表され、土砂災害、中小河川の洪水、内水浸水の危険度がメッシュデータとして危険区域と重ね合わせて見られるようになった。
 技術の進歩を背景とした情報改善に際しては田中教授から多くのご助言をいただいてきたが、根底にあるのはトータルとしてどうなのかという観点であった。防災情報や制度全体が整合的・包括的・シームレスになっているか、また国民・利用者からどう見えるのか、というのが常に命題として与えられたように感じている。それは、情報の内容のみならず、発表のあり方や、受け手の理解なども含まれる。
 いま、気象庁は市町村を対象とした「あなたの町の予報官」を通じた地域との連携強化や、非常災害時における「気象庁防災対応支援チーム(JETT)」による被災市町村へのきめ細かな情報提供に取り組んでいる。気象予測精度向上を背景により早い時点での記者会見を実施し、昨年は各地で気象台と地方整備局等との共同記者会見も実施できた。このように気象台は情報作成・発表から、より活用されるための取り組みまで幅広く地域や情報利用者に向き合うよう変化を遂げている。
 一方、昨年の台風第19号では再び多くの人命が失われることとなり、また、大都市の広域避難も運用の難しさが認識されることとなった。気象予測精度の向上と防災気象情報の高度化には未だ多くの挑戦すべき課題が残されている。これからも引き続き高い視点からのご指導、ご助言をお願いしたい。