南海トラフ関連情報における避難意図と状況依存

特集:南海トラフ地震に関連する情報

関谷直也
2019年6月1日

 気象庁は平成29年11月1日から「南海トラフ地震に関連する情報」の運用を開始した。これは、南海トラフ沿いで「異常な現象を観測した場合や地震発生の可能性が相対的に高まっていると評価した場合」に発表されるものである。この情報をどのように活用すべきか、様々な課題があるが、中でも住民がどのようにこの情報を活用し、避難に活かすかがもっとも大きな課題の一つである。
 そこで総合防災情報研究センターと日本放送協会は、共同で調査研究を実施した。一定程度、定量的に評価が可能とされている「ケース1:東側の領域が破壊する大規模地震が発生した場合」「ケース2:南海トラフで比較的規模の大きな地震が発生した場合」を中心として、これらの情報が出た場合に住民がどう反応するかを検討することにした。
 調査は高知県の沿岸部である高知市、静岡県の沿岸部である静岡市清水区(いずれも浸水深が5m以上とされる地点)、ならびに津波のおそれがほとんどない内陸部である静岡市葵区の住民を対象として実施した(調査主体:日本放送協会・東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センター、調査方法:郵送調査(世帯配布)、調査対象:高知市172票、静岡市清水区134票、静岡市葵区225票(回収率17.7%)、調査期間:2018年6月29日~8月7日)。
 南海トラフ関連情報が提供された際に、どのくらい避難が行われるだろうか。3日程度、7日程度との回答が2割強で最も多かった。一方10日以上避難するとの回答も合計で2割強であった(図は省略)。
 ただし、これは、情報の提供のされ方によって変動する可能性が大きい。過去において1~3日目に発生した事例はケース1で10事例中/全96事例、4日~7日目に発生した事例は、ケース1で2事例/全96事例、ケース2で24事例/全1368事例である(内閣府,2018)。この確率を示して、避難するかどうかを問うた場合は避難の意向は下がる(図は省略)。また、気象庁の呼びかけのみか、市町村がどのような情報を出すかにより避難意向は大きく変化する(図1)。
 また、避難する(避難を継続する)かどうかは多くの人が周囲の状況による。紙幅の関係から、クロス集計の結果を集約したもののみを示すが「周囲の人の避難」「仕事」「食料の不安」「銀行・商店やガソリンの入手」「学校の休校の状況(表では、12歳以下のいる世帯のみの集計)」「近くの病院デイケア施設などの閉鎖状況(表では、要援護者および65歳以上の高齢者がいる世帯のみの集計)」など、社会の状況に依存していることがわかる(表1)。
呼びかけや避難に関する情報をどのような主体からどのように提供するか、社会状況をどのように設計するかで、避難率は大きく異なる。情報提供をどうデザインするか、情報提供後の社会状況をどうデザインするかそれによって避難率は大きくことなると考えられ、極めて大きな課題となっているといえよう。


図1 「自主避難の呼びかけ」「避難勧告」と避難意図

表1 周囲の避難状況と避難意図