情報で命を救えるのか

CIDIR Report

田中淳
2018年9月1日

 1.平成30年7月豪雨
 7月5日から停滞した前線に向けて暖かく非常に湿った空気が供給され続け、広範囲に大雨が継続した。気象庁は、7月6日17時17分に福岡県、佐賀県及び長崎県に大雨特別警報を発表して以降、同日19時42分に広島県、鳥取県及び岡山県に、22時53分に兵庫県と京都府に、翌7日12時51分に岐阜県に、翌8日10時38分に高知県、愛媛県に大雨特別警報を発表した。各市町村も避難勧告・指示を発表し、テレビ・新聞も警戒を呼びかけ続けた。
しかし、死者は、広島県で108名、岡山県で61名、愛媛県で26名など、全国で220名という大きな人的被害をもたらし、また依然として9名の行方不明者がでている(消防庁7月30日07時45分資料による)。情報で命を救えるのか、考え込む災害となった。
2.どのような情報が求められるのか
 避難に結びつく災害情報を目指して事前のハザードマップの配布から新たな気象情報、避難勧告の発令基準、防災メールやエリアメール・緊急速報メールに至るまでいろいろな取り組みが展開されてきた。
 しかし、それぞれの災害情報がどの程度まで有効なのかは、検証はまだ残された部分がある。そこで、残念ながら有意な差は得られなかったが、問題意識として、当センターで実施した首都大規模水害を念頭に置いた周辺住民の評価の結果を紹介したい。
 この研究では、荒川氾濫の影響を受ける江東5区の住民を対象に、4つのグループに分け、グループAには「道路の冠水が起こると、ふたが開いたマンホールに落ちるなど歩くには危険がともなう」といったハザードマップに記載されている情報を4種類、グループBには「荒川の水位は上流の秩父の降雨量で決まるので、東京で雨が強くなくても氾濫する危険性がある」といった大規模河川の氾濫のプロセスに関する情報を4種類、グループCには「マンションの高層階などでも、浸水すると停電して、トイレや冷蔵庫などが使えなくなる」といった被災生活の深刻さに関する情報を4種類、グループDには「氾濫危険水位に達すると、計画を超える水位となり、いつ氾濫してもおかしくない状況になる」といった災害情報に関する4種類の情報を提示した。この4種類に加えて、基本情報として①1週間以上にわたって水が引かない地域がある、②堤防が決壊すると、近くの家が流される恐れがある、③浸水の深さが建物の2階を超える地域がある、の3種類を全ての対象者に提供し、避難勧告が出たら避難をするかどうかの避難意図との関係を実験的に調べた。
 その結果を図1に示したが、グループBの大規模河川の氾濫のプロセスに関する情報を与えたグループでは避難意図が若干高まっているように見えるが、統計的には有意な差は見出されなかった。
 提示すべき情報として有効な考え方であるとはいえない結果となったが、今後、研究計画を見直していく予定である。読者諸子にとり、災害情報を考える上での、ひとつの参考となればと願う。