まだまだ教わることがあります

特集:鷹野先生のご退職に寄せて

福島隆史
2018年3月1日

 鷹野さんは酒を飲まない。それなのに酒席を敬遠したりしない。むしろ居酒屋ではメニューに一通り目を通した後、率先して食べ物をいろいろと注文する。不思議なのは“定番”よりも、一風変わった創作料理や酒肴が好きらしいことだ。だって「ミミガーねぎ塩」なんて、普通なかなか頼まないですよ。
 一方で、ウーロン茶のグラスを片手に、私のような呑兵衛のたわいない話にもちゃんと耳を傾けてくださる。大先輩に対して月並みな表現で誠に恐縮だが、本当に好奇心の旺盛な方なのだろう。実際、癖というほどではないのだが、私の知る鷹野さんは、よく人にものを尋ねる。
 「それ何なの?」「どういうこと?」
 鷹野さんは決して知ったかぶりをしない。持って回った言い方もしない。興味を持った事柄に、メガネの奥から時に眼光鋭く、単刀直入に切り込んでくる。だから「それ何なの?」という“無邪気な”問いを鷹野さんが発するとき、それはとても自然で、ごく普通に思える。
 研究者の中には、専門外のことに対してまるで無関心だったり、門外漢が首を突っ込むのは論外と考えたりする人が珍しくないが、鷹野さんは違う。ちょっとした会話からでも、防災に携わる研究者として抱いている問題意識や関心の幅広さを感じるのだ。
 鷹野さんは常々、情報が防災・減災に活かされるかどうかは、その情報を受け手がどう認識し、どのような行動をとるかにかかっていると説く。避難などの行動に結びつかない情報は防災情報として意味がない、とも。
 一般向け緊急地震速報の運用を気象庁が開始してから丸10年が経過したが、鷹野さんは一貫して、気象庁が警報の発表基準を「(顕著な被害が生じにくい)震度5弱」以上としている点や、「震度4が予想される地域」にまで警報を発表している点を疑問視してきた。一方、東北地方太平洋沖地震のような巨大地震では最初の警報が過小評価になるため、警報の続報の出し方について再検討することを提言している。「日頃は過大で大災害時は過小となる警報は根本から見直しが必要」とのスタンスだ。
 私は、テレビ局で災害放送に携わる者として、特に東日本大震災の発生以降、鷹野さんから「単に緊急地震速報(警報)を出すだけでなく、後続の緊急地震速報を見て巨大地震の発生を知覚し、その緊迫性を言葉で伝えることを訓練しておく必要がある」と教えられた。
 2018年3月、気象庁は緊急地震速報の大リニューアルを実施するが、視聴者の安全を守ることに資する放送や情報提供を行えるよう、鷹野さんにはまだまだ教えを乞いたいと願っている。引き続き、酒席にもお付き合いください。鷹野さんが注文する品々、私も結構好きですから。