災害時における通信利用形態の変化と今後の可能性

特集:災害時の通信

NTTドコモ 池田正
2017年12月1日

 日本における通信は、固定電話(家庭)から携帯電話(個人)に変化することでパーソナル化が進み、また利用形態も音声通信からパケット通信、文字から写真・動画と変化している。災害時においても、音声やメール等1対1の通信が主体であったが、SNSの登場・進化により1対不特定多数に向けた利用に変化している。

 移動通信の歴史は、1979年(昭和54年)12月に日本電信電話公社(現NTT)が自動車電話サービスを提供したことが始まりとなる。当時は、自動車電話の名前のとおり、自動車設置を基本としていたため、個人で可搬できるというものではなかった。可搬が可能になったのは1985年にNTTがポータブル電話機「ショルダーホン」を開発・発売した以降となる。しかしながら、ショルダーホンは無線機本体+電池でカバンのような大きさ、かつ重さが約3kgもあったため、肩掛けベルトがあっても長時間の持ち運びには不向きであった。
 移動通信が大きく注目を浴びることになったのは、何と言っても1995年(平成7年)1月の阪神・淡路大震災であろう。固定電話が地震の揺れによる電柱の倒壊や火災による通信ケーブルの焼損により通信不通が継続する中、携帯電話は兵庫県内で39局が被災したものの、2日後には完全復旧し、災害救援活動や災害復旧活動に大きく貢献した。当時の契約者は全国で約400万契約であったため、通信時に大きな輻輳がなく、円滑な通信が確保できたことも要因の一つと考えられる。
 その後、移動通信はPHSの登場や0円端末等市場競争の過熱とともに2007年(平成19年)には1億台を超え1人1台時代が到来し、2008年にはiPhone 3Gが発売され、これを皮切りに端末はスマートフォンへ大きく変化することになり、使われ方もメールからSNS(Twitter、Facebook、LINE)に移り、個人が不特定多数に情報発信するようになっていった。
そのような中、発生した東日本大震災では、揺れによる通信ビルや基地局そのものへの被害はなかったものの、長時間の停電によるバッテリー枯渇、地震の揺れや津波による道路損壊などによる通信ケーブルの断線により大きな被害となった。通信も音声通信は長時間輻輳状態が継続する中、災害時でも通信しやすいパケット通信を利用したメールや災害用伝言板、SNS(特にTwitter)の活用が効果的であった。
 今後の想定される首都直下地震や南海トラフ地震等の大規模自然災害時にどのような通信状況が発生するか推測する。音声通信は、東日本大震災以降も通信回数が減少し続け、約20%近い減少率となっており、特に固定電話への通信は約40%の減少率となっている。東日本大震災では、平常時の約60倍もの通信量となり長時間の通信規制を余儀なくされたが、通信量減となっている音声通信は災害時に想定される設備容量を準備することは難しく、今後の大規模自然災害においても一定の通信規制が行われることが想定される。このような中で通信を確保するためには衛星携帯電話や災害時優先電話の活用が有効である。一方、パケット通信は、動画利用に対応した通信速度の高速化、スマートフォンの高機能化等により約16倍以上の通信トラヒックに対応した容量を通信会社各社が設備構築している。2016年4月の熊本地震では、このような状況もありパケット通信に大きな影響はなかった。このため、今後もパケット通信のための設備投資を継続できれば、災害時の通信集中による通信速度の一時的な低下はあっても、パケット通信は利用できる可能性は高く、有効な通信手段と言える。