Twitterと災害情報―「#救助」を例に

特集:災害時の通信

関谷直也
2017年12月1日

 九州北部豪雨災害では、ツイッターでの救助要請「#救助」が話題になった。ツイッター社では「110番、119番に電話がかけられない場合、ツイートすることが可能であれば、Twitterを救助要請の通信手段として利用することもできます」としている。そして、
「1.具体的に状況を説明してツイート(例:場所、氏名、人数、状態、要請内容等)」
「2.できれば、ハッシュタグ #救助 をつける」
「3.位置情報をつけるとより正確な通報が可能」
として、救助要請をみつけた側は、
「1.できればTwitterで被災者と連絡をとって状況確認」
「2.代理で電話で119などに救助要請をする」
としている(https://support.twitter.com/articles/20170080)。
 甘木・朝倉消防本部においては、SNSをみて通報したとの連絡は1件あったが、場所が特定できず、救助出動には至らなかったという。ほかにも、福岡県香春町高校2年生が、東峰村の夫婦の救助を求める内容をみて110番通報したという事例も1件あったという。全体的な状況としては、2017年7月5日~6日までの1億3860万ツイートのうち、「♯救助」による救助を求めるツイートは224件あり、リツイートされ16679件になり、一部引用なども含めると92578件となり、42999630アカウントに届いたという(朝日新聞,2017年10月5日,ツイッター「救助要請」、通報結びつかず 九州北部豪雨編集委員・須藤龍也、伊藤繭莉)。現実問題として、ネット上での救助要請は多くの様々なツイートに埋没し、また閲覧したほとんどの人は警察・消防に通報してはおらず、救助要請につながるものではなかった。
 東日本大震災においても、インターネットを用いた救助要請が有効だった事例は極めて少ない。東日本大震災の浸水地域において、夜間、通信が唯一使えたのは気仙沼市であった。NTTドコモの基地局が浸水を免れたため、蓄電池が持った10時30分過ぎまで通信が可能であった。気仙沼・本吉消防本部には、震災後の10日のうちTwitterなどインターネットによる救助要請は7件あったが、そのうち5件が誤報、1件は10日後に遺体を回収したというものであり、救助につながったのは1件に過ぎなかった。なお、総務省消防庁は東日本大震災の後、インターネットなどを介して救助要請が可能になるように検討を始めるとしていたものの、いまだ、有効な施策は提示されていない。
 東日本大震災でのインターネットやソーシャルメディアが活用された事例は、災害時の被災地での活用というよりは、主として東京など被災地の周辺部での活用や、支援をする側での活用であったが(関谷直也,2014,災害時のデジタルメディア-東日本大震災が示した災害時にソーシャルメディアとデジタルサイネージを活用する際の課題-放送メディア研究No.11,NHK放送文化研究所)、インターネットやソーシャルメディアは災害時に被災地で活用可能だとの大きな誤解が存在している。
 なお、あらためて、いくつか緊急通報にかかわる事実関係を確認しておきたい。
 第一に、そもそも119番、110番は、輻輳の規制対象外であることである。本来、緊急通報など重要通話を確保するために通常の通話を規制しているのであり、固定電話、携帯電話への通常の電話通常の電話がつながりにくい状況になったとしても(「通信の輻輳」が発生しても)、まずは119番、110番の緊急通報を試みることである。なお、警察はもとより、発呼の際の位置情報を把握しているシステムを持つ消防本部もあるので、電話通報は位置特定がなされやすいというメリットもある(救助要請の際にGPS機能をONにしていれば、通話と同時に、緯度・経度といった位置情報が通知される。GPS機能が無効またはGPS機能なしの携帯だと、3基地以上の基地局から位置を算出するので位置の誤差が大きくなる。 参考:http://www.ishikarihokubu.jp/119nokakekata/keitai119.nitsuite/
keitai119.nitsuite.html)
 第二に、災害時優先電話に準ずる公衆電話は緊急時でも通じやすいこと、携帯電話から固定電話がもっとも輻輳しやすいことなどをきちんと認識しておくことである。119番、110番へは、公衆電話が「災害時優先電話」に準じるので、最もつながりやすい。また、現在、災害時には携帯電話から固定電話への電話がもっとも輻輳しやすいことが知られている(平時はあまり使われないが、災害時はそのルートの利用が多くなるからである)ので、それを踏まえておくことである。
 第三に、Twitterによる「#救助」が有効なのは、携帯の通話・データ通信が使えず、固定電話の電話も使えない場合で、wifiもしくは、有線の光回線などのみが利用可能な場合に限られる。災害時、基地局が停電・故障などにより停止している場合は通話できないだけでなくSNSやメールなど通信も通じず、あらゆる手段が使えない。
 なお、結語として通信の問題とは関係なく、災害が大規模になれば救助活動自体が困難であることへの認識が重要であることを指摘しておきたい。そもそも救急車や消防車の台数、救助側の人員にも限りがある。東京消防庁では1400万人の人口に対して340台程度しか救急車はなく、受電対応の電話・人員も限られており、救助側の人数は限られている。かつ災害時の救助は、平時と異なり優先順位があるため、大怪我の場合はきちんと伝えることも必要だが、そうでないならば救助をあてにしないことも必要となる。軽い傷病は自分たちで対応する、自分たちで消火・救助するなど初期は自分たちで対応する、それを前提に災害に備えておく必要もある。
これらは都市部を襲う大規模災害に限らず、あらゆる地域の災害に共通する。災害時の救助、通信の現状については理解を深めておくことが必要である。
 本来、災害時の危機管理というものは、様々なメディア、情報伝達手段が使えないときに何ができるかというのが本懐である。今後、活用可能にするために研究・開発することと、現在使えるということは異なる。これを認識することが重要である。