防災プロセスによる災害対応のシステム化

CIDIR Report

沼田宗純

2015年3月1日

1. 災害対応の全体像の把握
 巨大災害が発生した場合、災害対応の第一次的な役割を担う市町村の災害対策本部には多様性への対応が求められる。それは避難所の運営、物資の提供、建物応急危険度判定、建物罹災調査、瓦礫処理、負傷者への対応、遺体処理、広報活動など、平常業務では取り扱わないものも含め多様な災害対応を同時に行うことになるからである。このとき、災害対応の全体像を把握していない状況下で、災害対策本部や意思決定者は、適切な指示は出せず、人も情報も適切に管理できない。

2.「災害対応想定」の必要性
 地域防災計画や各種のマニュアルは存在するが、災害対応業務が具体的に記述されておらず、また仮にこれが具体的に記述されていたとしても各担い手が不明であったり、項目の列挙であるため相互関連が不明であったり、結局は全体像を把握することはできない。
 その一因として、我が国では、国や都道府県等による「被害想定」は実施されているが、これに対する「災害対応想定」は実施されていないことが考えられる。また過去の災害においても災害対応のレビューされないため次の災害への効果的な対応として体系的にフィードバックされないからである。
 また、災害対応想定が存在していないために、想定される被害に対して、求められる災害対応を具体的かつ定量的に把握できない。そのために、事前の防災対策よりも事後の災害対応を効率的に実施できる環境整備に力を注いでしまう。

3. 防災プロセスの導入
 多様な災害対応を整理するために、災害対応をプロセス化することで解決できる。これは、「防災プロセス」として、事前から事後に至るまで防災に関する活動(対策や対応)を抽出し、各対応の前後関係や相互関係を整理し、担い手別に災害対応の流れを記述するものである。

4. 防災プロセスの粒度
 防災プロセスは大工程、中工程、小工程の主に3階層から構成される。大工程は、週又は日単位で表現するような工程であり、主に部署・グループなど「組織」の区切りが表現される。中工程は、日単位で表現する中規模の工程であり、主に人・機械など「リソース」、材料などの「もの」の切れ目が表現される。小工程は、時間・分単位で表現する小規模な工程であり、主に単一リソースが行う1つの判断、1つの作業で終るアクションが表現される。

5. 防災プロセスのQCD
 また各工程は、品質(Q)、工数(C)、期間(D)により特徴付けられる。Q(Quality)は各活動の精度に起因するものである。職員を効果的に配置し災害対応を行うためには、業務のレベルや内容を分類し、必要なリソースを配分することが求められる。例えば、被災者に必要な支援策やサービスが漏れなく提供されているか等である。また対応の難易度もこれに関係する。経験を必要とするものなのか、危険物の取り扱いなど資格を要するものなのか等である。
このように業務の整理ができると、他自治体からの応援職員への業務の割り当てに関しても迅速かつ最適な業務の役割が与えられ、効果的な広域応援体制にも繋がる。
 C(Cost)は、建物の応急危険度判定、建物罹災調査など作業人員を多く必要とする業務である。これを明らかにしておくことで、限られた人員を有効に配分できる。また人員が不足している場合でもこれを認識しておくことで、業務全体における負荷分析が可能となる。
 D(Delivery)は、業務の期間が短期間で終わるのか、または長期間要するのかを把握するものである。復旧や復興など長期間を要する業務に関してはこれを踏まえた組織体制の構築が可能となる。工数も期間も対応する被害量に応じて変化するため、被害とこれの相関関係をモデル化することで計測できる。

6. 災害対応のシステム化
防災をプロセス化できることは、防災をシステム化できることと同義である。災害対応の「段取り」が定義できるために、防災プロセスとデータベースの相互連携により大幅に災害対応業務を効率化できる。
システムの使用のタイミングは事前と事後で大きく分けられる。事前は、ハザード(地震動の強さと広がり等)と発災時の状況を入力値として、これに関連する災害対応がスケジューリングされ、ボトルネック工程が明らかになり、ここへのリソースの集中的な配分、工程短縮への方策とリソースの負荷の分散などが、シミュレーションできる(図1)。従って、事前にどの工程にリソースを多く投入すれば、効果的な人材マネジメントが可能となる。また、被害が軽減された場合に、もっとも効果の高い工程を確認することで、事前の被害抑止・軽減策の効果の検証にも利用できる。
 一方、事後には、災害対応の進捗管理や情報の一元化による情報マネジメント、組織マネジメントなど、効果的な災害対応のマネジメントが可能となる。

7. ノウハウの蓄積と利用
 内閣府の災害状況の「とりまとめ報」によると、平成26年度20件、平成25年度15件等、政府レベルの災害対応も多く実施されている。防災プロセスにより、これらの経験を活用できる形式に蓄積することができる。つまり、防災プロセスの見直しによる災害対応自体の更新、防災プロセス内のコンテンツの修正や追加など、プロセスを軸にノウハウを蓄積することで、次の災害対応への効率化が可能となる。
 これを日本社会へ定着することで、初めての災害対応を実施する市町村では、発災後に最低限実施すべき内容と注意点等、過去のノウハウを容易に利用できるようになる。

防災プロセスシステムの概念図