東日本大震災における地震型火災の特徴と今後の課題

特集:地震火災

山梨大学 地域防災・マネジメント研究センター 秦康範

2014年9月1日

 2011年東北地方太平洋沖地震では、330件もの火災が発生し、1都10県に及ぶ大規模かつ広範囲に被害が発生した(消防庁被害報第149報)。ここでは消防本部から提供された58消防本部289件の出火データに基づき、主に地震動に起因する火災について分析を行った結果について紹介する。
 出火原因に基づき判別を行った結果、地震型火災164件(57%)、津波型火災125件(43%)となった(表)。津波火災が大きくクローズアップされたが、出火数で比較すると地震型火災の方が多かった。地震型火災は、宮城県46件(28%)が最も多く、次に東京都35件(21%)、茨城県23件(14%)と続き、広範囲にわたって発生した。発火源をもとに、「電気」、「ガス・油類」、「その他」として分類し、これを出火原因として扱った。出火原因の割合は、電気を原因とするものが、東北地方太平洋沖地震83件(66%)と最も多く、この傾向は72時間以内に出火したものを対象としてもほぼ同じ傾向70件(69%)であった。兵庫県南部地震においては85件(30%)であるが、不明146件(51%)の多くは電気が発火源とされており、兵庫県南部地震と同様に東北地方太平洋沖地震においても、電気火災は支配的な原因であった。
 電気火災の出火原因の内訳は、電熱器32件(39%)、送配線・配線器具31件(38%)、電気機器・装置15件(21%)であった。兵庫県南部地震では電熱器50%、送配線・配線器具29%、電気機器・装置20%であり、電熱器の比率がやや減少しているものの、内訳は同傾向であった。兵庫県南部地震以降、電気ストーブの転倒防止スイッチや観賞魚用ヒーターの過熱防止等の地震対策が実施されてきたが、東北地方太平洋沖地震においても観賞魚用ヒーターや電気ストーブ等の電熱器は、電気火災の4割を占める結果となった。
焼損面積では大部分が単体火災であり、1000m2を超える火災は皆無であった。大規模な火災延焼が発生した兵庫県南部地震とは、大きく異なる結果となった。この原因としては、①地震発生時刻が日中であり住民による初期消火や消防による消火活動が行いやすい時間帯であった、②揺れによる建物被害が少なかったことが考えられる。
 一方で、停電がほとんど発生しなかった関東地方において、多数の電気火災が発生していた。東京都内では29件の火災が発生し、そのうち電気火災26件(90%)を占めた。また、地震後2時間以内に21件発生するなど、地震直後の出火が電気火災の8割を占めた。いわゆる通電時(停電後の復電時)のみならず、地震動により出火条件が整っているところに電力が供給されれば、停電の有無にかかわらず電気火災は発生することが示された。また、観賞魚用ヒーターは全5件のうち4件が都内で発生しており、安全装置のない旧型が依然として使用されている実態が示された。
 また、消防本部に停電の有無及び復電時刻を照会し、地震後4時間以降72時間以内に復電に伴う火災が9件発生したことを確認した。復電火災については、電力会社の安全確認が十分でなかったというよりは、むしろ復旧時において供給サイドがどれだけ安全確保策の徹底を図ったとしても、復電に伴う火災をゼロにすることは難しいと考えるべきであろう。特に人口が密集した都市部では、確認すべき需要家の数が膨大なため、安全確認の徹底と早期復旧はトレードオフの関係にあるからである。
 図は推定地震動分布から地震型火災の出火確率を試算したものである。電気火災については、東北地方太平洋沖地震の震度6弱の地域において10-5件数/世帯程度、兵庫県南部地震において震度6強以上において10-4件数/世帯程度である。確率の低い現象ではあるが、ゼロではないことに留意する必要がある。
 東北地方太平洋沖地震では、大規模な延焼火災は発生していないものの、電気火災の出火リスクは小さくないことが示された。電力供給信頼性の高い首都圏では、揺れが大きい地域においても地震後停電しない可能性が高く、揺れが大きい地域ほど出火率が高くなることが予測される。電力の安定供給と地震時の早期復旧は社会的に望まれているが、電気火災の発生抑止という観点からは、感震ブレーカー等の需要サイドの出火防止対策の推進、地域の火災リスクを踏まえた戦略的な供給停止や、関係機関と連携した供給再開といった、地震時の供給停止や復旧のあり方について、ステークホルダーによる議論が今後必要であろう。今後発生が懸念されている首都直下地震や南海トラフの巨大地震における火災対策において、電気火災対策の重要性を再認識する必要があると言えよう。

表 都県別出火件数

図 地震型火災の震度別出火率(72時間以内)
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参考文献
秦康範、原田悠平:2011年東北地方太平洋沖地震における地震型火災の特徴、土木学会論文集A1(構造・地震工学)Vol. 70 (2014) No. 4 p. I_1107-I_1117