デジタルサイネージを用いた防災気象情報の伝達システムの開発

特集:豪雨災害と防災情報

関谷直也

2014年6月1日

 東日本大震災の後、首都圏を中心にデジタルサイネージを用いた災害情報の伝達が行われた。東日本大震災を踏まえて改定された「東京都防災対応指針」には、「都は、鉄道事業者や業界団体などに対して、駅における情報提供体制の整備や予備電源の確保等の対策を要請し、情報提供機能の確保を促していく。また、大型ビジョンやデジタルサイネージを活用し、音声や文字による情報提供を実施するなど、災害時要援護者が情報を得やすい環境整備に向けた取組も行っていく」と定められた。事実、近年、液晶パネルの価格低下などを背景としてデジタルサイネージが増えてきている。デジタルサイネージの活用は、従来のテレビ・ラジオなどのマスメディア、インターネットや携帯電話を用いたソーシャルメディアに次ぐ、第三の災害情報伝達メディアとして有効と考えられつつある。
 もちろん停電が発生しない軽微な被害や帰宅困難だけが問題になるような場合(東日本大震災における首都圏の場合)には、有効活用しうるものの、地震災害においては停電や通信の寸断などが考えられ、デジタルサイネージを用いた情報発信は難しい。基本的には停電が考えられる大きな災害では活用できない。
 すなわち停電の可能性が低く、災害発生までリードタイムがあり、事前の情報提供が可能な災害、すなわち台風、河川上流で局地的豪雨の後に懸念されるフラッシュフラッドなどの極端気象による災害の発生前の情報提供、事前啓発などにおいてはデジタルサイネージは有効であろうと考えられる。
 そこで、我々は極端な気象現象の観測・予測をするものとして近年開発されてきているXバンドMPレーダの雨量情報をサイネージを用いて伝達するシステムを開発することとした。XバンドMPレーダとは250 mメッシュという高分解能と高観測精度の最新型レーダであり、1分ごとの実況値が観測可能である。これを用いることにより、早期に局地的豪雨を検知することが期待されている。長期的には、緊急地震速報の気象版、すなわち「緊急豪雨速報」のようなものを目指して開発が進められている。我々は、これを地域が固定されているデジタルサイネージというメディアを用いて情報を伝えるシステムを開発すれば、リアルタイムの防災情報を提供するものとして、有効であろうと考えた。
 だがデジタルサイネージは拠点ごとに放映編成が異なり、サーバーに映像を蓄積して繰り返し放映される広告媒体である。リアルタイムの情報伝達ができないため、これを可能にするシステムを開発する必要があった。専用の再生デバイス(STB)を各拠点に追加し、拠点ごとの異なる編成スキームに依存することなく、情報を統一的にコントロールしつつ送出することを可能とした。このシステム構築により、指定のwebコンテンツを決められた時刻に決められた秒数、デジタルサイネージの画面に、適正に表示することが可能となった。2013年度は①あだちシティビジョン (北千住駅前)、②エキサイトビジョン柏 (柏駅前)、③エキサイトビジョン大宮アルシェ (大宮駅前)、④池袋リプレビジョン (池袋サンシャイン通り)、⑤ふれあいビジョン (博多駅前)の既存のデジタルサイネージ数か所を利用して実施した。普段は1時間に2回、各30秒防災啓発情報を放映する。放映箇所周辺で降雨が観測または予測される場合はXバンドMPレーダの実況雨量監視画像ならびに予測雨量監視画像に自動的に切り替えられ放映される。2013年度は、実況雨量の画像、10分後、30分後の予測雨量の画像という3種類を各10秒間、放映するというシステムを構築し約半年間実験を行った。
 この社会実験を通じて、極端な気象現象を伝えようとする際の課題がいくつか浮かび上がってきた。もっとも重要なものは、技術的に表示可能な地図の範囲や精度と、人が理解しやすい地図の範囲と精度が異なるということである。表示する地図の範囲を狭くすると広範囲で降雨が観測された場合(同程度の雨量の雨域がその地図の範囲を超えた場合)、一面が同じ色になってしまい、何を表しているかがよくわからなくなる。すなわち技術的に可能かどうかは別にして、雨域の境界が地図に収まるような大きさの地図でないと理解しがたい。かつ、普段、私たちは降雨域、天気の予報を日本地図、地域の地図で解説されたもので理解しているので、それより細かい地図だと分かりにくい。また、そもそもXバンドMPレーダは降雨の現況を250m×250mで把握するものであるが、エリアを狭くすれば狭くするほど、当然のことながら降雨を把握する精度は落ちる。ゆえに「空振り感」が増える。XバンドMPレーダは雨粒を捉えるので、そもそも大きく外れることはないが(時間や場所がずれたり降雨の程度がずれたりするが)、表示エリアを狭くすると「空振り感」が増すのである。
 他にも視認性や字の大きさ、通常の天気予報との違いが認識されていないなど、様々な問題点がある。現在、実用化に向け街頭調査などを元に改善中である。

図  降水時の実況雨量監視画像(左)と予測雨量監視画像(中、右)