量的降灰予報の実現にむけて―降灰予報の高度化に向けた提言―

特集:レベル化が進む災害情報

火山噴火予知連絡会副会長/京都大学名誉教授 石原和弘

2013年6月1日

 気象庁は、2007年12月の噴火警報・噴火警戒レベル運用開始に続き、顕著な噴火が発生した時に降灰が予想される地域を発表する「降灰予報」の提供を2008年3月末に開始した。これまでに、浅間山、霧島山と桜島の噴火に対して発表されている。平成24(2012)年度には「降灰予報の高度化に向けた検討会」が開催され、降灰予報の改善に関する検討がなされた。16名の委員のうち6名は上記3火山周辺の防災、徐灰、農業、報道、医療に係る方々である。数cm以下のレキ(小石)を含む降灰の定量的予測を前提にして、生活、交通、ライフライン等への影響の度合いに応じた降灰情報の提供のあり方や降灰警報の発表に関する議論がなされ、「降灰予報の高度化に向けた提言*」として取りまとめられた。主な内容は、降灰予報の体系、降灰量の階級(レベル)に関する提言と今後の課題である。
 降灰予報は住民のニーズから始まった。1970年代半ばから桜島は連日のように噴火して鹿児島県民は降灰に悩まされた。火山灰は粉砕された石の粉、しかも二酸化硫黄など酸性ガスが付着している。セメント粉のような細粒の火山灰はわずかな隙間からでも屋内に入りこみ、地表や屋根に堆積した後も風により舞い上がる。当時、理髪店での調髪は洗髪から始まった。火山灰が付着した髪に鋏を入れると刃が傷つくからである。火山灰・火山ガスに晒されたみかん等果実は表皮が変色して商品価値がなくなり、桜島から40~50km離れた志布志湾では天日干しの魚に火山灰が付着するなど、さまざまな場面に降灰の影響が現れた。県民からの要望を受けて1983年に鹿児島地方気象台が提供をはじめた「桜島上空1500mの風情報(風向と風速)」は放送局により天気予報の時間に報道され、鹿児島県民に降灰情報として定着している。
 今回の提言では、「火山上空の風情報」に代わり、ある規模噴火を想定して風況予測に応じた数時間毎の降灰範囲予測を「噴火前の降灰情報」として提供するとしている。また、噴火が発生した場合には、現在の「降灰予報(降灰範囲)」に代わり、噴火直後5~10分程度で発表する「噴火直後の速報」と約30分後から発表する「噴火後の詳細な予報」を提供することとしている。
 降灰予報で使用する降灰量の階級は、表のように、「少量(0.1mm未満)」、「やや多量(0.1mm~1mm)」と「多量(1mm以上)」の3段階に区分する案が適当とされた。降灰の影響は、積灰が0.2mmに達すると道路の徐灰作業が必要となり、30分~1時間で1mmを超える降灰は「ドカ灰」となり交通などに障害が出る。更に降灰厚2cm以上に対して「極めて多量」を設ける案も提示されたが、高レベルの噴火警戒レベルが発表される事態とも重なるので今後の検討課題とされた。当面は桜島をモデルケースに地元自治体等の協力を得て、試験的な情報提供を行うと共に情報内容や発表基準の改善を図ることとされた。数年以内に新たな降灰予報業務が開始される予定である。
 富士山の宝永噴火などいわゆるプリ二―噴火では、火山灰に加えて、レキ(小石)や軽石が風下側、火口から10km以遠まで大量に降下する。レキや軽石混じりの降灰の中を徒歩や車で避難するのは、大雪警報あるいは大雨洪水警報中の避難以上に危険である。「降灰警報」を導入するのであれば、現行の「噴火警報(噴火警戒レベル)」との関係や降灰警報発表時に住民や自治体等に期待する行動などに関しても十分かつ慎重な検討が不可欠であろう。

表 降灰予報で使用する降灰量の階級
(気象庁HP*から抜粋)


*http://www.jma.go.jp/jma/press/1303/29a/kouhai_kentokai_teigen.html