311まるごとアーカイブスが目指すもの‐被災地による被災地のためのアーカイブ‐

特集:震災アーカイブスとその活用

(独)防災科学技術研究所主任研究員・(一社)東日本大震災デジタルアーカイブス支援センター代表理事

長坂俊成

2013年3月1日

 防災科学技術研究所は、東日本大震災発災直後に被災地の情報支援をミッションとしてクラウド環境を構築し、官民協働被災地情報支援ポータルサイト「All311」(http://all311.ecom-plat.jp/)を立ち上げるとともに、被災自治体の罹災証明書発行や瓦礫撤去管理、災害ボランティアセンター運営支援、仮設住宅の要支援者の見守り支援等のためのSaaSを提供してきた。上記の被災地情報支援の一環として、東日本大震災災害デジタルアーカイブス(通称「311アーカイブ・プロジェクト」(http://311archives.jp/index.php))をスタートした。
 本プロジェクトは、被災自治体や被災住民、被災地のNPO等と協働して、被災地による被災地のための災害デジタルアーカイブスの構築と運用・利活用を支援する中間支援活動に取り組んでいる。先ず、被災直後、被災自治体の要請を受け、被災地全域の被害状況を写真等の映像で記録する活動から着手した。全国のプロ及びセミプロ等のカメラマンに対し、プロボノとして「記録(撮影)ボランティア」への参画を呼び掛け、延べ600名以上の記録ボランティアの参加を得て、被災直後の被災地の被害状況を撮影した約5万枚の写真を被災地に提供した。同時に、被災自治体と協働で被災地の住民が自ら撮影した貴重な被害映像を収集し、著作権や肖像権等の権利処理を行い、メタデータを付して、災害デジタルアーカイブWebシステムにコンテンツを登録し被災地に返却する活動を継続している。開発中のアーカイブシステムは、写真やビデオ、文書、音声ファイルの保存・公開に加え、標準APIを用いて被災前後の航空写真や津波の浸水実績図、仮設住宅や仮設商店街等の復興過程の地図など地理空間情報もアーカイブし一枚の地図に集約(マッシュアップ)することや、映像と地図を相互に参照することが可能となる。
 一方、被災地の要望として、被災前の家族や地域の映像に対するニーズが高く、流された家族のアルバムや写真を被災者に返却する「思い出の返却」プロジェクトに取り組んできた。また、被災地の無形の文化遺産のアーカイブスを通じた地域のアイデンティティの再興を支援する活動(無形文化遺産情報ネットワーク・事務局:独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所http://mukei311.tobunken.go.jp/)とも協働している。
故郷を離れて避難している福島の方々からは、失われた地域の記憶や家族・友人との思い出を映像で再生し個人の尊厳や地域の誇り、家族や友人との絆を取り戻したいとの思いが寄せられており、過去のニュース映像をデジタル化し上映会等を開催する準備を進めている。
 被災者が体験を証言として後世に伝えたいという思いに応えるために、オーラルヒストリーをビデオ映像で撮影する活動に取り組んでおり、釜石市では、自治体と協働して既に100人を超える方々の証言が記録された。石巻市では、被災当時の現場を辿りながら証言をビデオで記録することや、東松島市では、市立図書館が地域の社会教育や生涯学習の住民とのかかわりの中で被災体験を記録する活動、大船渡市の小学校では防災教育の講師として地元消防団員を招き、講義を電子教材の素材としてビデオで記録している。
 釜石市では、被災地の復興過程の定点観測や商店や事業所からの避難行動を調査し避難体験マップとしてアーカイブしている(http://emap2011-award.ecom-plat.jp/)。その他、NPOによる復興過程のセルフアーカイブ、コミュニティ放送局による取材を通じた復興過程のアーカイブ、アーカイブスを活用した復興ツーリズム等の社会起業支援等、アーカイブスを通じた復興支援にも注力している。アーカイブスの利活用の取り組みとしては、上記の復興ツーリズムに加え、文部科学省初等中等局の復興教育支援事業と協働して、アーカイブスを利用した防災教育向けの電子副教材SaaSや能動的学習のための電子ワークブックSaaSを開発し、オープンソースとして無償公開する準備を進めている。このように被災地での利用を先行させ、利用目的を明確にしつつ、被災者とともに災害の記録を収集し、証言を記録するなどの協働の取り組みが有効となる。
 2012年11月より311まるごとアーカイブスを「一般社団法人東日本大震災デジタルアーカイブス支援センター」として法人化し、被災地による被災地のためのアーカイブ活動を支える中間支援の取り組みを拡充することとした。現在、被災自治体の多くは、被災者の生活再建が優先される中、アーカイブを推進するための全庁的な体制が整備されておらず、また、予算措置や人材確保も困難な状況にある。今後、アーカイブシステムの一般公開に向けて、被災地での先行的な利活用を通じたメタデータの充実を図るとともに、著作権や肖像権等の権利処理を行った上で、人類共有の財産として一般に公開する準備を進めている。防災目的及び被災地の復興支援目的であれば、原則、2次利用も含め誰でも無償で利用できる。今後とも、国等のアーカイブスの取り組みとも連携しつつ、官民協働により、被災地によるアーカイブスを支援してゆきたい。関係各位のご協力に心より感謝致しますとともに、引き続き、ご支援賜りますよう、お願い申し上げます。

参考文献
長坂俊成『記憶と記録 ― 311まるごとア-カイブス 叢書震災と社会』(2012年4月、岩波書店)
長坂俊成他「情報技術による東日本大震災の被災地支援-宮城県および岩手県での活動事例-」(2012年3月、(独)防災科学技術研究所・主要災害調査No. 48)