学内放送設備を用いた緊急地震速報の伝達

特集:大学の防災

鷹野澄
2012年12月1日

背景
 東北地方太平洋沖地震の際の緊急地震速報では、地震を検知してから8.6秒後にマグニチュードがM7.2に成長して宮城県、岩手県、福島県、山形県に警報が出された。しかしその後に出された緊急地震速報では、65秒後にM7.9、105秒後にはM8.1とマグニチュードが徐々に大きくなり大地震から巨大地震に巨大化していったことを示していたが、このことが伝達されて活用されることはなかった。これは、現在の緊急地震速報が、単に警報を発表することのみに重点が置かれ、警報発表後に出されている後続の情報を活かすことがなされていなかった為である。緊急地震速報では、一つの地震に対して次々と新しい情報が出されるため、単に警報を出したら終わりというような単純な伝達ではなく、警報後も必要に応じて新しい情報を出すという伝達方法が必要なのである。そこでCIDIRでは、地震研と共同で、このような新しい緊急地震速報の伝達方法を採用した放送用装置を、学内の非常用放送設備向けに開発した。

開発した放送装置の概要
 図1にこの装置の概要を示す。学内では、部局ごとあるいは建物ごとなど様々な形で、多数の非常用放送設備が設置されている。その導入時期や機種、設備の起動に要する時間などは様々であるため、学内の非常用放送設備の現状を踏まえて、多くの放送設備で利用可能な2つの入力(放送設備ON信号、音声Line入力)を用いることにした。
気象庁が発表した緊急地震速報は、地震研のシステムを介してCIDIRで開発された緊急地震速報端末に届き、そこから学内の専用VLANを介してインターフェースコンバータを遠隔制御する。インターフェースコンバータから放送設備を起動し、予めシグナルボイスに録音されている音声を選択して放送する。放送開始後に緊急地震速報の後続報が届いて、放送音声を途中で切り替える場合は、放送を中断して新たな放送音声を流すことが可能になっている。

過去の緊急地震速報による放送例
 表1は、3.11の東北地方太平洋沖地震の時に出された緊急地震速報をもとに、柏キャンパスで本装置を利用した場合の放送例を示したものである。3.11の緊急地震速報では、約111秒間の間に、第1報から第15報まで情報が出された。本装置では、設定震度(通常は震度4)以上の場合だけでなく、大地震対応として、地震のマグニチュードがM7.0以上の場合は予想震度3でも放送開始するようにしている。表1の第4報のとき、柏の予想震度は3であるがマグニチュードがM7.2と大きくなったため放送開始されている。その後主要動到達まで10秒ごとにカウントダウンが放送され、その途中の第9報でマグニチュードがM7.5以上に大きくなったために、「巨大地震です」と放送して地震が巨大化したことを放送している。

学内導入状況、防災訓練での利用など
 本装置を用いた緊急地震速報の学内放送設備への導入は、まだ開始されたばかりである。この10月に理学部に導入され、10月26日に実施された理学部の防災訓練において本装置が利用された。11月には地震研究所にも導入され、本部棟でも近く導入予定である。今後、環境安全本部や施設部などを通じて、学内の多くの非常用放送設備に本装置の導入を勧め、学内放送設備を用いた緊急地震速報の伝達が広まるようにしたいと考えている。

図1 学内向けに開発した緊急地震速報放送用装置の構成
緊急地震速報放送内容
 第4報8.6秒後 M7.2(NHK音) [大地震です][安全な場所で身を守って下さい]
(約4秒後)[あと50秒][安全な場所で身を守って下さい]
第9報22.2秒後 M7.6(NHK音)[巨大地震です][安全な場所で身を守って下さい]
(約2秒後)[あと40秒][安全な場所で身を守って下さい]
(約10秒後)[あと30秒][安全な場所で身を守って下さい]
: (以下、20秒、15秒、10秒、5秒で放送)
(主要動到達時刻)[揺れが収まるまで、安全な場所で身を守ってください]
:(以下略)
表-1 放送例(3.11の緊急地震速報を柏キャンパスで受けて放送した場合)