「不確実の丸投げ」を乗り越え「みんないい」防災へ
特集:南海トラフ地震臨時情報発表1年
日本テレビ放送網
谷原和憲
2025年9月1日
6 月、内閣府防災担当は「南海トラフ地震臨時情報発表に伴う防災対応事例集」を発表した。去年8月の日向灘地震の際に初めて出された「巨大地震注意」に対し、自治体や住民から「どのような行動をとるべきなのかわかりにくかった」といった声があがり、その検証の一環でまとめられたものだ。17 の自治体・事業者の対応が紹介され、夏イベント、海水浴場、高所作業などでの可否判断の経緯が記録として残された。ただ、網羅的に集約したものではないため、同じ鉄道でも徐行による運転継続と運転見合せの判断が分かれた理由、自治体により避難情報の発出状況が異なった事情までは明らかにされていない。今回、防災対応の最終プレーヤーである「住民」からすると、臨時情報そのものの「わかりにくさ」に加え、「各主体がどう対応するのか?事前に周知されていない」ことも重なり、その結果「何をすれば良いかわからない」と感じた人も多かったのではないか。
臨時情報をめぐっては、3 月末に被害想定の見直しを発表した中央防災会議のワーキンググループの報告書でも「大規模地震が発生する可能性は高まっていることを示すが、発生するかしないかは不確実」「行動指南型でなく状況伝達型の情報」と整理されている。検証の議論のなかでは「自らの行動を自ら考える意識を醸成し、臨時情報発表時の行動を予め決めておく」ことが重要だとされた。臨時情報は確度の高い地震予知は困難であることを踏まえ、「わからない」から始まる地震情報だ。それを受け取る住民にすれば、行動を自分で決めよと言うならば、同じ情報を受けた周囲、日常生活や経済活動で関係のある相手がどうするのか?を予め知っておきたいと考えるのは当然だ。科学的に不確実ならば、せめてお互いの手の内ぐらいは共有し、ベターな選択をしたい……臨時情報の活用を今後さらに進めるならば、国は早急に「自治体・事業者が各々の対応を事前公表し、他者が判断材料として活用できる情報共有の場」を整備することが必要だ。それがないと「不確実の丸投げ」を繰り返すだけだ。
図は、初めての臨時情報で「とるべき行動がわかりにくかった」という声を受け、政府が新たに示したSNS 発信の案だ。イラスト付きで「何が大切か」が具体的になったのは良いが、残念ながら受け手は「防災の優等生」ばかりではない。もう少し「多様な対応を寛容する」余地を示してほしい。例えば、家具の転倒防止がどうしても間に合わなかった人もいるだろう。それでも「(出来るだけ)家具のない部屋で寝る」ことならば可能だ。事業者は「社会経済活動の継続」が基本だが、従業員には家族の事情もある。通常出社を前提にした備えだけでなく、在宅や遠方避難先でのリモートワークなども選択できる幅が欲しい。新型コロナの経験は貴重な財産だ。
「わからない」から始まる臨時情報では、「やれることから、やる」防災、「一歩だけでも、きのうより前へ」の防災、という意識が大切ではないか。巨大地震注意の不確実性を受け止めたうえで、これまでの“みんな一律・最優先”とは少し違う、多様な災害情報との付き合い方をお互い認め合うことが必要だ。童謡詩人・金子みすゞの言葉を借りるなら、「みんなちがって、みんないい」防災だ。
初臨時情報から1年となる前日、国は自治体・事業者向けガイドラインの見直し版を公表、巨大地震注意で鉄道は「原則、運行規制しない(平常通り)」と示された。では各線その通り? 個人の防災対応はこの共有からだ。

図. 内閣府(防災担当)「南海トラフ臨時情報(巨大地震注意)発表を受けての防災対応に関する検証と改善方策」(2023 年12 月)より