洪水土砂災害発生場所と災害リスク情報

特集:シンポジウム「大規模水害と防災気象情報」を振り返って


客員教授/静岡大学防災総合センター 教授
牛山素行
2025年6月1日

 
 本講演では、風水害(洪水・土砂災害)における深刻な被害である人的被害に着目し、その被災状況や、発生場所と災害リスク情報の関係について検討する取り組みを紹介する。講演者は、1999 年から2022 年にかけての風水害に伴う死者・行方不明者1521 人について調査を行ってきた。公的な統計が存在せず、消防庁の災害情報も簡略化されている現状であり、報道、画像、動画、地図、現地観察などから得られる一般公開情報を用いて調査を行っている。
 被害をもたらした原因外力の構成比は、土砂関係が4 割強、水関連が4 割強、それ以外が1 割強となっている。ここで水関連の被害のうち約4 割は、川などの水域に自ら近づいて被災した事例である。このような被災形態からは「田んぼの様子を見に行った高齢者」が連想されそうだが、そうしたケースは全体の5% 程度にすぎず、多くは日常の行動や様々な形で「様子を見に」行くなどして水域に接近し、被災している。屋内と屋外の被災割合はほぼ半々であり、自宅にとどまり避難しなかった人ばかりが犠牲になっているわけではない。土砂災害では屋内での被災が8 割に及ぶ一方、水害では7 割が屋外で被災しており、状況によって「立退き避難」が必ずしも安全とは限らないことが示唆される。
 災害リスク情報との関連を見ると、土砂災害の9 割は土砂災害警戒区域内で発生しており、「想定外」の場所で被害が多発しているわけではない。水害については、洪水の浸水想定区域での被災は5 割強だが、地形的にみれば9 割が洪水の可能性がある「低地」での被災である。したがって、ハザードマップや地形の情報の重要性が改めて浮き彫りになった。
 最近の調査では、2024 年の能登半島での大雨による災害時に輪島市久手川町の塚田川付近で、川の流路が変わり、家屋が流される事例を確認した。ここも当時のハザードマップでは浸水想定区域外であったが、地形分類では明らかに低地であり、地形的には洪水の可能性がある場所だった。
 人的被害に関しては情報のあり方にも難しさがあり、全般的には情報が伝えられにくくなっている印象もあるが、いくつか注目される事例もある。たとえば、2024 年8 月に土砂災害により人的被害が生じた愛知県蒲郡市では、災害発生場所や被災状況について比較的詳しい情報を公表した。市に対して問合せが集まる中で、市の基本姿勢が「出せる情報は出す」ものであったことがこうした情報の出し方につながったようである。2024 年10 月の宮崎県日南市での洪水による人的被害の事例では、NHK が消防機関や目撃者などに丁寧な取材を行い、被災場所や被災状況についてかなり具体的な報道がおこなわれた。こうした情報が公表、報道されることにより被害の実態が共有され、今後の防災対策につながっていくのではなかろうか。