能登地方での臨時地震観測 〜何が言えたのだろうか〜
教授
酒井慎一
2025年3月1日
能登半島では、2024 年1 月1 日に発生したM7.6 の地震(能登半島地震)によって多くの建物が倒壊し、多くの方々が被災された。以前から、能登地方では地震観測をさせていただいていて、現地を訪れるたびに、ここで地震が起きたら嫌だなという思いがあった。珠洲市の方々とお話をする際にも、誰も住んでいない家が増えてきたとか、集落が海岸線のすぐそばにあるとか、隣の集落への道が限られていること等を話題にしていたが、それ以上に踏み込んだやり取りをしなかったことが悔やまれる。
珠洲市では、2021 年頃から小さな地震が続いていて、徐々に有感地震が目立ち始めていた。活動度(時間当たりの発生数)に変化はなかったから、特に活発化していたわけではなかったが、活動が長期間になれば、規模の大きな地震も発生するため、有感地震が起きるようになってきていた。そこで、この群発地震活動がどのようなものなのかを明らかにするため、震源域直上に観測点を臨時に設置した(写真)。活動の始まりが不明瞭で地震が発生し続ける群発地震は、これまでにも全国各地で観測されている。大きな地震が発生してその後に比較的小さな地震が引き続いて発生する地震活動(いわゆる本震―余震型)とは違うため、活動の推移を予測しにくい。群発地震中の地震発生数や最大地震の規模は様々であるし、活動度には増減があったり、震源域を移動させたりしながら、特に大地震が発生することもなく、やがて活動が減衰していくものがほとんどであった。しかし、今回の能登半島での群発地震活動は、活動度がほとんど変化せずに一定の頻度で地震が発生する状態が続いていた。この一定の活動度で地震が発生し続ける、というところに大きな謎があるため、珠洲市に集中的に地震計を設置し、その原因解明の手掛かりを見つけようとしていた。
何度か現地入りし、珠洲市立飯田小学校とよしが浦温泉に地震計を設置させていただいた。設置した短周期地震計のデータは東京大学地震研究所まで伝送され、気象庁をはじめとする全国の関係機関の研究者へ配信されている。東北大学の臨時観測点2 点と合わせて4 ヶ所の観測点を新たに作り、既存の観測点(気象庁と防災科研)と合わせて能登半島先端部に約10 か所の地震観測網ができあがっていた。能登半島地震が発生した際には、震源地を中心として停電や回線断が発生し、データを送付できない時間帯があった。しかし、地震発生直後の混乱期にも飯田小学校だけは停電せず、現地のデータを送り続けることができた。
この高密度な観測網から得たデータを解析することで、高精度な震源分布が得られた。この群発地震の一部は、能登半島地震の断層の最深部付近に位置し、この活動が、その後の大地震発生に何らかの関りがあった可能性が示唆され、地震発生を解明する研究にとって大きな貢献が期待されている。
一方で、現地の方々の協力で得られたこの観測データは、現地の人々にとって、どんな意味をもたらすことができたのであろうか。能登半島地震が発生する前年には、いくつかの建物や石灯籠等に被害が生じるような、やや大きめの地震が発生していた。現地の方々からは、まだ群発地震は続くのだろうか、地震で壊れたものを片付けてもよいのだろうか、この後もっと大きな地震が起きるのではないだろうか等、今後の推移の予想に関する質問をいただいた。しかし、我々の現在の学術レベルで確実に言えることはほとんどなく、懸念している事象を伝えて、安全な行動をとっていただきたいと述べるにとどまっていた。地震による被害を減らすためには、もっと積極的な言葉を示すことができるようになるまで、研究を進めることしかできない。
最後になるが、珠洲市、輪島市、能登町の多くの方々に協力をいただき、研究を進めることができていることに感謝したい。

点検作業(2024 年2 月13 日)。周囲
には多くの被害が見られたが地震計は無
事で、地震前後の観測記録を送り続けて
いた唯一の観測点である。