計画運休のオペレーションと情報提供について

特集:災害の事前予防ー荒川放水路通水100年、計画運休10年、予防的通行止め1年


東日本旅客鉄道株式会社 安全企画部
青山正博
2024年12月1日

 鉄道の計画運休は世の中で定着したのであろうか?
 2014 年10 月、台風19 号が近畿地方に接近することが予想されたため、JR 西日本が京阪神地区にて在来線全線の運転を見合わせた際、計画運休という言葉が大きく話題となった。当時の新聞報道によれば影響人員は約48 万人、近畿2 府4 県の24 路線で約1200 本の運休や遅れが出たそうだ。しかし実際には京阪神地区の雨量、風速は予想ほどではなく、JR 西日本が運休していた時、私鉄各線は平常通り運転していたこともあり賛否両論があったとされる。
 実は当社でも台風等気象条件に応じ、一部線区・区間の運休や間引き運転等の運転計画をあらかじめ決定し、計画的に運休することは以前から実施していたが、首都圏で大規模かつ計画的に列車の運休(いわゆる計画運休)を実施したのは、2014 年以後、これまでに2018 年台風24 号及び2019 年台風15 号、19 号の3 回である。計画運休の基本的な考え方は、台風等の気象状況等を踏まえ、長時間の運転見合わせや大幅な列車遅延等により、ご利用のお客さまに大きな影響が見込まれる場合にあらかじめ運転本数の調整等を行うことで、被害や影響を最小限にとどめるものである。気象予測から線区ごとにいつ頃からいつ頃まで運転見合わせになるのかを把握することがポイントとなる。そのうえで運転見合わせ時刻等を決定し、ある程度の余裕を持ってご案内するのが有効的である。
 ただしお客さまに早くご案内することだけを優先すると、予測のブレ幅が大きい気象予測情報で運転計画を立てなければならず、ケースによっては空振り(必要のない運休)や計画運休前に運転中止になってしまう。特に気象予測情報を用いて事前に計画運休を開始する時間を決定していたとしても、予想より早く運転中止となると、最悪の場合、お客さまの乗車している列車が駅や駅間に長時間停車してしまうことなる。このような事態は避けなければならない。逆に確度の高い気象予測情報で運転計画を立てようとすると、お客さまにお知らせする時間が遅くなってしまう。台風ではこのバランスを台風の規模(勢力など)と上陸するタイミング(影響する時間)に応じて、対策を検討しお客さまにお知らせすることが重要である。
 2019 年7 月、国土交通省から「鉄道の計画運休に関する検討会議」にて鉄道の計画運休のあり方、特に利用者への情報提供のあり方を中心に最終とりまとめが報告され、鉄道会社各社は情報提供タイムラインをあらかじめ作成するとされた。当社ではお客さまが余裕をもって行動できるよう可能な限り「前々日」に「計画運休の可能性」をお知らせし、運休となる路線や時間帯等の『具体的な情報』は、可能な限り「前日の昼前」にお知らせすることとしている。
 台風通過後は、運転再開に向けて設備の点検等を行い、安全確認が取れた線区から順次運転再開となる。2019 年台風15 号では、運転再開見込みを発表した際に「被害等が認められた場合には運転再開までさらに時間を要する可能性がある」ことをお知らせしていたが、運転再開前あるいは十分に運行本数が確保される前にお客さまが集中してしまい、一部の駅で入場規制を実施するなど、お客さまを長時間お待たせする結果となってしまった。運転再開見込みは、設備等の安全確認・復旧作業時間を想定し、また運転再開本数も考慮したうえでお客さまのご利用集中を回避する表現にてお知らせすることとしている。
 最後に私はとある防災担当者から「自治体がどんなに避難指示を出しても危機感を持ってもらうのはなかなか難しいが、JR が計画運休すると外出をあきらめる等危機感を感じる人も多く、JR は世の中を動かした」と聞いた。鉄道の計画運休は、JR 西日本が本格的に実施してから10 年経過し、社会に受け入れられつつあるのではないかと思っている。