令和6年1月1日の能登半島地震における津波避難

特任助教
石橋真帆
2024年9月1日

 日本海における大規模地震に関する調査検討会によれば、日本海側で生じる地震は「地震の規模の割には津波高が高く、到達までの時間が短い」。そして、2024年1月1日16時10分、まさしく日本海に面する石川県能登地方においてM7.6の地震が発生した。津波避難といえば多くの人が東日本大震災の凄まじい光景を想起するかもしれないが、冒頭に示したように、日本海側の地震津波は太平洋側のものとはやや異なる性質を持つ。ゆえに、本地震においては、揺れを感じたら間髪を入れずに高台へ逃げるといった迅速な対応が、とりわけ順守されねばならなかった。では、実際に住民はいかにして津波から逃げた/逃げなかったのか。
 東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センター関谷直也研究室では、地震からおよそ2か月後の2024年2月から3月、7月に、石川県内外に避難していた石川県居住者に対してアンケート調査(n=258)を行った。2か月後の調査においては、震災直後ということもあり津波避難の有無や方法などの実態を詳しく尋ねた。本論ではそのうち基礎的なデータとなる、津波避難行動の実態について紹介する。
 まず、図–1は回答者全員に対して実際の避難行動を尋ねた結果である。「津波のことを考えて、すぐに避難した」は52.3%、「津波のことを考えて、すぐには避難しなかったが、念のため避難した」は7.0%であり、全体の6割弱は津波を念頭に避難を行っていた。なお、調査対象者の居住地は、ハザードマップ上ではほとんど津波の浸水想定区域には含まれておらず、リスクを高めに見積もって避難した人が一定数存在したといえる。では、避難行動をとった人(n=153)は、何をトリガーに避難したのだろうか。避難のきっかけを問うた結果が図–2である。最も多数を占めた回答は「地震の揺れが大きかったから」であり70.6%であった。一方で、テレビ、スマホ・携帯電話利用に関する項目はいずれも回答率が低く、あまり使われなかった様子が見受けられる。本結果を素直に捉えれば、「地震の揺れ」という直接的な情報が最も要因として機能したと捉えることができる。
 最後に、津波避難のタイミングに関する結果が図–3である。なお、20分以上の回答については1カテゴリー当たりの度数が少なくなることから集約して示している。結果としては0分、すなわち発災時に間髪を入れずに避難をした回答者は26名いた。また、2012年に公表された石川県における津波浸水想定では、輪島市や珠洲市付近など、地域によっては5分以内に津波が到達する想定も公表されていたが、5分以内に避難をした回答者を合わせると78名であった。これは避難した回答者のうちの51.0%に当たり、半数程度の人が迅速に避難行動を開始したといえる。
 以上、本調査からは1月1日の能登半島地震において、一定数の住民が地震の揺れを契機に迅速な津波避難を行っていたことが明らかになった。ただし、本結果のみを見て避難の「成功例」とみなすのは早合点であり、1月1日で家族が揃っており、皆で揃って意思決定ができたことなど、偶発的な要因が多分に影響していた可能性も否定できない。いずれにせよ、地域の特性に根差した災害対策と、災害時における効果的な情報発信が継続されるべきことに変わりはない。
(本論は石橋・安本・入江・鍵・関谷(2024)「令和6年能登半島地震における津波避難の実態」自然災害科学(印刷中)の一部である)

図–1 発災時の津波避難行動(n=258)
図–2 避難した理由(n=153, 複数回答)
図–3 避難開始時間の度数分布(n=153)