令和6年能登半島地震から9か月 過疎化した地域・高度高齢化先進地域を襲った地震
特集:日本海側の地震津波の被害と教訓 ⑵
金沢大学准教授
藤生慎
2024年9月1日
高度高齢化先進地域を襲った大規模地震で必要だったものは!?
令和6年1月1日の能登半島地震時に最も必要だったものは何だろうか? 高度高齢化先進地域と言われている能登半島。多くの高齢者が必要としたものは医薬品であった。そこで、「国民健康保険データ(以下KDBデータ)」を用いて、平常時において、慢性的に使用される医薬品の種類及び使用者数を町字単位で把握した。輪島市、珠洲市でも本稿で使用したKDBデータは存在するが、今回は能登半島の付け根に存在する羽咋市を対象とした分析結果を紹介し、能登半島先端部の輪島市、珠洲市でも同様の状況、もしくはさらに悪化した状況であることをお伝えしたい。
本稿では慢性的に使用される医薬品として、金沢大学医薬保健研究科の教員へのヒアリング調査をもとに、KDBデータ内の薬効分類について、医薬品の選定を行った。表–1に対象とした医薬品を示す。医薬品の選定時には「医薬品が使用できない場合に、病態の悪化をもたらす疾患の方に処方される医薬品」と「使用時に専門家の判断が必要な医薬品ではないもの」の2つの観点から対象とする医薬品を決定した。
慢性的に使用される医薬品をKDBデータから抽出し、医薬品ごとの処方件数を算出した。羽咋市における医薬品ごとの処方件数を図–1に示す。図–1より、羽咋市における慢性的に使用される医薬品として、その他の血圧降下剤使用者(2,849件)、その他の高脂血症用剤使用者(2,465件)、冠血管拡張剤使用者(2,255件)と高血圧や高脂血症等の生活習慣病に対する医薬品の処方件数が特に多く、次いで、その他の糖尿病用剤(906件)やその他の精神神経用剤(793件)、その他のアレルギー用薬(788件)などの処方件数が多いという結果が得られた。対照的に、その他の抗てんかん剤(254件)やその他の去たん剤(150件)に加え、ホルモン系製剤の処方件数は少ないという結果が得られた。この分析結果は高度高齢化先進地域の入り口にある羽咋市を対象とした分析結果であり、医薬品処方状況結果としては、血圧降下剤や高脂血症用剤、消化性潰瘍用剤のような高血圧や高脂血症等の生活習慣病に対する医薬品処方件数が特に多く、災害時において、高い需要が見込まれることが得られたが、羽咋市よりも北部の志賀町、輪島市、珠洲市でも同様もしくはさらに厳しい状況であった。実際に、筆者らの被災地内でのヒアリング調査では、医薬品の不足による不安が高いという結果が出ている。このような状況の中、1月1日の能登半島地震では、道路インフラの断絶状況下において多数の孤立した集落へのドローンを用いた医薬品配達、処方箋不要のお薬処方、地域と金沢大学病院が連携した医療体制の確保など様々な先進的な取り組みが行われ、民間でもお薬配達車が被災地内にプッシュ型で大量の薬を投入するなどの試みも見られた。先進的な取り組みである一方、お薬のニーズと供給バランスの不均衡など、様々な問題も見られた。さらに、透析の患者様への対応が困難を極めた。長期間に渡る断水・孤立など、透析ができない環境下においてどのように透析が必要な患者様へ対応していくかについても、半島防災の観点から大きな課題が露呈した。筆者らは、能登半島のみならず、半島部という特殊性、さらに高度高齢化先進地域という地域特性を考慮し、半島型災害科学を進める必要性を強く実感した。
令和6年能登半島地震で犠牲になった方々のご冥福をお祈りいたします。また被災者の方々へ心からお見舞い申し上げます。