最近の日本海沿岸地域の地震活動
特集:日本海側の地震津波の被害と教訓 ⑵
副センター長
酒井慎一
2024年9月1日
今年(2024年)1月1日に能登半島でM7.6(気象庁マグニチュード)の地震が発生した。震源が約16㎞と浅く、陸域で発生した地震であったため、強い揺れによって建物被害や土砂崩れ、斜面の崩壊などが数多く発生した。そのため、道路が寸断され、その後の救助活動や救援活動に対する大きな支障となっている。マグニチュードが大きかったため、強い揺れを受ける時間が長くなり、震源地から離れていても、地盤の液状化を引き起こした地域もあった。震源域が、能登半島から佐渡島との間の海域に広がっていたため、周辺地域では津波による被害も生じていた。大地震の発生では、土砂崩れや津波の発生など、様々なことを同時に引き起こしてしまい、それらが、道路の通行不能や港湾の損傷をもたらし、結果として、救援や復旧の妨げになるなど、広く影響を及ぼすことを認識する必要があると感じた。特に今回は、輪島市や珠洲市で、その後の大雨で再び被害を受けることになり、迅速な復旧の必要性を痛感させられた。個別の対策も必要であるが、地震動対策だけにとどまらず、複数の事象が続けて起きてしまうことを想定し、周辺に対する影響に関しても考慮することが大切である。
以前から、この地域を含め、日本列島の日本海沿岸地域には、多くの活断層が存在することが確認されている。260万年程度の期間に発生した地震によって生成された断層を活断層と呼んでいるが、その中でも陸域に存在する活断層は、人間の活動する地域に近いため、そこで発生する地震は、社会への影響が大きいと考えられる。これまで、各自治体では、その活断層による地震の被害を想定し、それらに対する対策を講じてきた。しかし、すべての活断層を調査することはできないため、多くの人が影響を受けると考えられる金沢市や富山市等の都市部に近い陸域の活断層から調査が進められてきた。海域の活断層に対しては、今後、調査を開始する予定で、文部科学省の研究観測プロジェクトが始められるなど、これから研究調査や研究解明が開始され、被害を軽減する対策を検討する予定であった。
今回の地震が発生する以前から、能登半島周辺では、いくつかの不穏な現象が観測されていて、今後の大地震発生につながる先行現象ではないのか、という懸念が示されていた。その一つは、2021年頃から活発化していた群発地震活動である。この活動は、時期によって活動分布を変えながらも、2024年1月1日の地震発生直前まで、ほぼ同じ頻度で地震が発生していた。徐々に規模の大きな地震が発生するようになり、2022年にM5.5、2023年にM6.1と規模の大きな有感地震が発生し、建物に被害が出始めていた。さらに、この群発地震活動の発生と同じ頃、珠洲市を中心とした地面の隆起が観測されていた。それはGNNS観測による地面の変動を測定したもので、地下で体積が増加するような現象、もしくは地下でゆっくりとした断層すべりが発生していたことを意味する。どちらでも観測データを説明することが可能であり、能登半島の地下で何か異変が起きていることが示唆された。
この一連の活動以前にも、能登半島周辺では、2007年能登半島地震や1999年能登半島沖地震が起きていたり、もっと以前は、1964年新潟地震や1948年福井地震など、地殻内で規模の大きな地震が発生したりしていた。大地震が発生したことのある地域の中で、長く続く地震活動は、大地震発生の先行現象かもしれないと考えられた。しかし、今回のように2年半もの長い期間にわたって地震活動が続いた後で、大地震が発生した例は知られていない。現在は、1月1日の大地震の余震活動が少しずつ減ってきている状態であるが、それが、どの程度の活動度にまで下がるのか、群発地震開始以前の状態にまで下がるのかを確認する必要がある。一般的に、地震は蓄積されたひずみエネルギーを解放するために発生すると考えられている。そのため、地震が発生してひずみが解放されれば、徐々に地震活動が減っていくはずである。地震活動が続く状態は、ひずみエネルギーが残っていることを意味し、今後の更なる活動につながる可能性が考えられる。能登半島の地下でどのようなことが起きているのかを総合的に解明する必要がある。