台風ヨランダから10年〜分野・部門間連携の視点に基づく復興後調査

(株)エイト日本技術開発 防災保全部
(土木学会 ACECC-TC21 国内支援小委員会 幹事長)
井上雅志
2023年12月1日

 2013 年11 月8 日、台風ハイエン(ヨランダ)がフィリピン・レイテ島に上陸し、タクロバン市を5m 以上の高潮が襲った結果、約8,000 人の死者・行方不明者を出すなどの甚大な被害が発生した。タクロバンにおけるその後の復興事業では、建築禁止地域の設定や住民移転、日本の支援による防潮堤の建設などが行われ、間もなく災害発生から10 年を迎えようとしている。
 2022 年2 月、土木学会のACECC-TC21 国内支援小委員会のメンバーが「Post-Audit Survey(復興事後調査)」と題してタクロバン市での調査を行った。当委員会は、アジアを中心とした17 の国・地域の土木学会から構成されるACECC(アジア土木学協会連合協議会)の21 番目の技術委員会であり、「Trans-Disciplinary Approach for Building SocietalResilience to Disasters(分野・部門間連携による災害に強い社会作り)」をテーマとして活動を進めている。本調査では市役所や地域のバランガイ、市民組織へのヒアリングを通じて、復興後の現状を把握すると共に、「分野・部門間連携」の視点から復興の知見・教訓を得ることを目的とした。
 調査の結果、防潮堤の建設は95% が完了し、以降高潮による被害は発生しておらず、その効果が現地住民から評価されていたことを確認した。しかし、住民移転に関しては9 年経っても当初予定の73% の完了に留まり、その原因としては土地の確保やライフラインに関する調整の問題が挙げられていた。実際、水や電気、場合によっては窓さえもない状態で新しい建物に移住させられ、しばらくの間、ライフラインが使えないということもあったようである。また、国と地方自治体間の調整不足により、地方自治体の開発許可を得ないままに開発・移転が行われた結果、洪水リスクの高いエリアへの移住、下水処理の不備に伴う下流エリアにおけるコレラの発生などの問題が生じていた。一方、NGO などの第三者によって移転前・移転後の住民支援が行われることで、住民統治がより良い形で行われるなどの効果が複数のヒアリングにおいて確認された。
 本来、復興の目的はただ家屋を提供するのではなく、十分な住環境における通常の生活を取り戻すことであり、そのためには国、地方自治体、インフラ事業者との連携や第三者による支援が必要・有効であることが改めて確認された。当委員会は今後も「分野・部門間連携」をテーマに防災や復興に関する調査研究を行っていく予定である。

市役所ヒアリングの様子
住民ヒアリングの様子