目黒公郎『首都直下大地震ー国難災害に備える』旬報社
連載:BOOK Review
関谷直也
2023年9月1日
今年は関東大震災から100 年である。その100 年後の9 月1 日に出版されたCIDIR センター長目黒公郎著『首都直下大地震―国難災害に備える』は、単に関東大震災を振り返るのではなく、少子高齢化、人口減少、厳しい財政制約の中で、次の大規模災害である首都直下地震、南海トラフ巨大地震に立ち向かっていくには、どうすればよいかを論じた書籍である。
第Ⅰ部で、首都へのヒト・モノ・カネの極度の集中の根本要因として、首都に人材がなぜ集中してしまうようになったか、江戸以降の歴史から紐解き、首都圏のバルネラビリティとして「首都圏一極集中」の形成過程を描く。
第Ⅱ部では「首都直下地震に備える」と題し、防災対策には優先順位があることやソフト対策/ハード対策など様々な防災対策にはプラスの側面とマイナスの側面があることなどの原則論、目黒先生が開発した「目黒メソッド」「目黒巻」を中心とする想像力をもって次の災害に立ち向かうことが大事であるとする災害イマジネーションの重要性、人材育成と人材運用という人の問題が論じられる。
次の災害に備えるために、知識やノウハウを学んだり、制度の改正といった表層的なことは重要ではない。現代の社会のありようを踏まえて根本的な課題、原理を追究すること、防災対策を原則から考えること、そのようなことを思考する人材を育成する「人づくり」が重要なのである。「目黒節」の集大成である本書を、ぜひ、お読みいただきたい。