首都直下地震の啓発コンテンツのあり方

連載:関東大震災100年・これからの100年 第7回

特任研究員
安本真也
2023年6月1日

 

首都直下地震の被害想定を基にして、2019 年12 月にNHK で放送されたドラマ「パラレル東京」を題材とした効果の分析を行った。その結果、啓発に資する映像コンテンツとして、恐怖感情を刺激することが有効であることが明らかとなった。今後は過去のアーカイブを防災啓発に活用する上でも、恐怖感情など心理的側面に着目した防災啓発手法についても研究をすすめる必要がある。

 東京は関東大震災以降、大きな地震を経験していない。そうしたなかで、いつ襲ってくるかわからない首都直下地震に対して、日頃から住民一人ひとりが備えることは急務である。
 現在、災害に遭った人がその災害の様子を撮影することも容易になり、フィクションとして映像制作にVFX や様々な映像技法をもちいることも容易になった。またYouTube などの動画配信プラットフォームやスマートフォンの普及など、映像コンテンツを様々な手段で共有することも可能になってきた。そのため、多くの人が地震による被害をイメージしやすくなってきている。
 こうした地震による被害の様子をイメージすることの重要性は多くの研究において述べられている。だが、具体的にはどのような映像コンテンツがどのように人々の地震への備えにつながるのか、防災啓発において有効かまで、明らかとはなっていない。そこで、内閣府が2013 年公表した首都直下地震の被害想定を基にして、NHK が映像化を行ったドラマ「パラレル東京」の放映された後、これを題材として、アンケート調査によりその効果の分析を行った。
 結果、このドラマでテーマとされていた8 つのリスク事象全てについて、番組視聴前よりも自分が被害にあうと思う確率があがっていた。そして、群集雪崩や将棋倒しに巻き込まれること、大規模な延焼火災に巻き込まれること、工場や建物の爆発被害に巻き込まれること、土砂災害に巻き込まれることの4 つの事象については、3 か月が経過しても、自分が被害にあうと思う確率が番組視聴前よりも高かった(詳細は安本ほか(2022)参照のこと)。つまり、被害をイメージしやすくなっていた。
 では、なぜこの4 つの事象だけが、自分が被害にあうと思う確率があがっていたのか。そこで、Slovic(1987)の研究を基に、都民に対して別途、アンケート調査を実施し、8 つのリスク事象すべてのイメージ地図を作成した。これらのリスク事象について、心理的にどのような特徴を持つかを分析した。結果、前述の4 つのリスク事象はいずれも、「恐ろしさ」因子の値が大きい結果が得られ、それ以外は比較的、低い傾向がみられた。つまり、元々、首都直下地震に関するリスクとして感情的に、恐ろしいと考えられていた事象を、「パラレル東京」が刺激したと考えられる。恐怖という感情面に訴えかけた結果、首都直下地震発生時の被害に関するイメージが3 か月にわたって残り、自分が被害にあうと思う人が増加したと考えられる。つまり、首都直下地震の映像コンテンツとして、恐怖感情を刺激することが有効であることが明らかとなった。
 現代では映像のアーカイブ化などが様々なところで進んでいる。だが、アーカイブとすることが目的化しており、どのような映像コンテンツがどのように防災啓発において有効かまで、明らかとなってはいない。今後は、関東大震災の教訓を活かすという点からも、こうした恐怖感情など心理的側面に着目した防災啓発手法についても研究をすすめる必要があるだろう。

[参考文献]
Slovic, P., 1987, Percrption of risk, Science, Volume 236, pp.
280–285
安本真也・河井大介・齋藤さやか・関谷直也,2022,首都直下地震に
関する映像による認知の変化―パネル調査を用いたドラマ「パラレル
東京」の効果分析―,災害情報No.20 (1),pp.123-136.