急速に進む災害対応のDX

特集:災害対策のDX 化の現在と未来

九州地方整備局 インフラDX 推進室
房前 和朋
2022年12月1日

 
 

●災害対応のDX の重要性
 近年九州では、平成28 年熊本地震、平成29 年7 月九州北部豪雨等の大災害が頻発している。令和2 年7 月豪雨では熊本県を中心に広範囲で甚大な被害が発生し、国土交通省では自治体支援等にTEC-FORCE(緊急災害対策派遣隊)として延べ10,606 名の職員を派遣した。
 被災後も降り続く激しい雨や猛暑、コロナによる行動制限、交通網の寸断等によって被災状況調査等は困難を極めた。しかし、自らも被災している自治体や災害対応に携わる地域の企業等では、それ以上の苦労があったと拝察する。
 令和3 年4 月に九州地方整備局にインフラDX 推進室が創設され、最優先で取り組んだのが災害対応のDX である。DX とは「働き方の改革」であり、デジタル技術を活用し様々なルールを変更することで、大幅な効率化を実現する。ひとたび災害が発生すれば、膨大な作業が発生するが、現在我が国では少
子高齢化等の影響で労働人口が減少しており、今後は十分な人員確保がさらに困難になると推測される。このため、国土交通省だけではなく、自治体や地域の企業が活用できる災害対応のDX を早急に実施する必要がある。
●災害対応のDX の取り組み
 令和2 年7 月豪雨での被災状況調査は、赤白ポールやメジャー等アナログな手段を用いていた。そこで九州地方整備局ではデジタル技術を用いて災害調査を変革し、少ない労力で、簡単・安全かつ迅速に調査を行う技術の開発を実施した。また、導入しやすくするため、用いる技術は簡単に習得でき、用いる機材も安価で入手しやすい家電量販店やインターネットで購入できるものとした。
 令和4 年1 月22 日(土)、日向灘を震源とする震度5 強の地震が発生した。デジタル技術を用いた手法による被災状況調査を実際の災害で行った。被災調査対象の面積は約2 万m2 と比較的規模が大きいものの、ドローンによる写真測量やiPhone を用いたレーザー測量等のデジタル技術を駆使した結果、約
90 分で各種現地調査を完了することが出来た。また,データ解析、資料とりまとめ、クラウドを用いたインターネットによる共有を含めた全作業を災害発生から24 時間以内に完了した。さらに、ドローンやレーザー測量を用いることで,調査を行う隊員の安全性が大きく向上し、用いる測量機材が大幅に軽量
化され、隊員の負担も軽減できた。
 令和4 年台風14 号では、スマートフォンで撮影した写真から3D モデルを作成し、クラウドで共有する手法を導入した。100 を超える被災現場が3Dモデル化され、直ちにインターネットを通じてクラウドで共有された。数百枚の写真により3D モデルを作成するため、データの送信や解析に1 モデル1時間程度を要するが、安価に運用でき、クラウド上で誰でも長さや面積などが簡単に計測できるため、災害対応に活用できうると考えている。
 また災害対応のDX を周知するため、各県・政令市や大学、団体などで体験会を開催している。今後も災害対応のDX を推進し、被災地域の一日も早い日常の回復を支援したいと考える。

   

九州地方整備局 DX 被災状況調査班 10 月21 日計測 民生品の安
価なドローンで撮影した写真を解析し3D モデルを構築。短時間(10 分)
で安全に計測が可能。クラウドで簡単に共有できる。