大規模水害に備えた事前防災行動計画「タイムライン」の意義

特集:CIDIR教員の教育

学際情報学府 博士後期課程(修士課程修了)
作間 敦
2022年6月1日

 タイムラインとは、近年注目されている水害対策であり、取り組みを推進している国土交通省によれば「災害の発生を前提に、防災関係機関が連携して災害時に発生する状況を予め想定し共有した上で、『いつ』、『誰が』、『何をするか』に着目して、防災行動とその実施主体を時系列で整理した計画」(国土交通省、2016: 4)とされている。この定義には、タイムライン作成の手段は説明されているが、取り組みの対象や目的、意図が説明されていない。そのため、市町村を中心とした防災機関の水害対応に着目した多機関連携型タイムラインや、避難情報発表のタイミングに着目した避難勧告着目型タイムライン、住民の避難に着目したマイ・タイムラインなどが存在し、対象や目的が異なる取り組みが同じタイムラインという言葉のもとに行われている。本研究はタイムラインの定義を明確にすることを目的に、「タイムラインの対象者は誰か」「タイムラインの目的は何か」を明らかにした。
 タイムラインは、ハリケーン・サンディや東日本大震災の発生によって大規模水害発生の懸念が高まりハード対策だけでは被害を防ぎきれないと認識され、市町村を中心とした防災関係機関の対応力の向上が必要となったことが取り組みの動機となっている。タイムラインは、防災対策上はソフト対策として扱われている。ソフト対策はnon-structural measureと訳され、本来は堤防やダムなどの構造物によらない対策という意味を持つ。しかし、東日本大震災の発生によってソフト対策は人を避難させる取り組みとして捉えられる傾向にある。そのため、マイ・タイムラインのように、タイムラインも住民の避難を目的とした取り組みと捉えられ、当初の動機が薄れ対象者を曖昧にさせてしまっていると考えられる。
 タイムライン導入の動機は、市町村を中心とした防災関係機関の対応力の向上と述べた。具体的には状況定義能力および連携調整能力の向上が目的である。真山は、市町村について「災害応急対策を実行する専門性ということになると、皆無といってもよい」(真山,1995:129-130)と指摘し、その専門性について「災害発生という非日常のものとで行われることから、(中略)緊急時の状況定義における能力の高さ」(ibid: 130)とし、さらに「平時にはそれぞれ別の目的のもとに異なる業務を執行している組織を、急きょ協働させることは難しい。それゆえそこでは組織間の調整能力を必要とする」(ibid: 130)と説明している。これは、阪神・淡路大震災における市町村の対応を踏まえた指摘であるが、2016 年に発生した関東・東北豪雨での常総市の対応をみるに水害時にも同じ問題を抱えている。実際に作成されているタイムラインの事例をみると、状況定義機能および連携調整能力の不足を補うために、「いつ」「誰が」「何を」すべきか計画が作成され、それを適切に活用するための運用体制が構築されている。
 上記を踏まえると、タイムラインは防災関係機関を対象にその状況定義能力および連携調整能力を向上させることを目的とした取り組みと考えることが適切である。「市町村を中心とした防災関係機関が、今後発生が懸念される大規模水害に対する状況定義能力と連携調整能力を向上させ対応力を強化するために、災害時に発生する状況を予め想定し共有した上で、『いつ』、『誰が』、『何をするか』に着目して、防災行動とその実施主体を時系列で整理した計画と、計画の作成および活用と改善を図る取り組みのこと」と定義できる。また、多機関連携型タイムラインを策定している市町村は前述した2 つの能力の向上効果を得られることが、アンケート調査の結果から明らかになっている。
 今後、タイムラインをさらに発展させるためには、この定義を前提に、マイ・タイムラインのような、本来の目的と合致しないものの既に実施され有用な効果をもたらしている住民を対象とした取り組みの位置づけを整理し、明確な目的のもと取り組みを推進することが、必要と考える。

[引用文献・参考文献]
国土交通省.2016.『タイムライン(防災行動計画)策定・活用指針(初版)』.https://www.mlit.go.jp/river/bousai/timeline/pdf/timeline_shishin.pdf.2021 年12 月30 日閲覧.
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material/files/group/6/kensyou_houkokusyo.pdf.2022 年1 月6 日閲覧.
松尾一郎・CeMI タイムライン研究会.2016.『タイムライン~日本の防災対策が変わる~』.日刊建設工業新聞.
真山達志.1997.『防災行政の課題』.「年報行政研究」.1997 巻,32 号:115-134.
室蘭開発建設部.2018a.『沙流川日高町富川地区水害タイムライン試行版』.https://www.hkd.mlit.go.jp/mr/tisui/c5b1ee0000007pfn-att/c5b1ee000000avt1.pdf.2021 年
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室蘭開発建設部.2018b.『沙流川日高町富川地区水害タイムライン試行版 附属資料』.https://www.hkd.mlit.go.jp/mr/tisui/c5b1ee0000007pfn-att/c5b1ee000000avsy.pdf.
2021 年12 月30 日閲覧