警戒レベルの方向性

特集:2021年7月 熱海伊豆山土石流災害の課題

田中淳
2021年9月1日

 2019年の出水期から避難情報に警戒レベルが導入されて、3回目の出水期を迎えた。2021年度も、すでに梅雨末期の大雨による被害が発生しており、中でも熱海市の土砂災害では多くの命が奪われた。土砂災害の激しさとともに、土砂災害からの避難の難しさが浮き彫りにされた。今回の災害を受け、土砂災害による災害の軽減が議論されるだろうが、本稿では警戒レベルの特徴を整理し、今後の方向性についての私論を展開していきたい。
 警戒レベルにはいろいろな考え方や評価があろうが、個人的にはその導入に際して「災害情報のわかりやすさ」について、以下の3つの関係性で利点が大きいと考えている。第1に、個々の災害情報と災害情報との間の関係性である。かねてより「危険」と「警戒」、「臨時」と「緊急」など切迫性の表現は工夫されてきたが、いずれの表現がより切迫しているかをとっさに判断することは難しい。言葉を選び、周知広報することで定着は可能だろうが、時間を要することは避けられない。その面で、「レベル3からレベル4へ」と切迫性があがったという関係性は理解しやすくなる。
 第2に、災害情報と防災行動との関係性である。少なくとも警報等の災害情報では、災害への警戒意識を高め、最終的には避難等防災行動に結びつけることが求められる。このような災害情報では、自然現象としての強さや蓋然性の高まりから分類されるのではなく、求められる行動から分類される方がより直接な表現となる。先陣を切った国の委員会の報告書の表現を借りれば、まさに「主として噴火規模によって表現している」火山活動度レベルから「噴火時等にとるべき防災対応との関係を明確化し」(内閣府,2008)のであるし、「洪水時等の防災情報をいかに避難等の行動に結びつけるかという視点」からとりまとめたのである(国交省,2006)。 第3に、複数の災害種別を超えて横断的にた災害情報の関係性である。住民は、すべての災害による影響を受ける危険性を持っている。災害種別によっては、影響されにくい地域もあるが、災害毎に異なる表現や分類が異なるよりも、共通であった方が、理解しやすく、社会的定着には有利となる。
 これらの特徴を踏まえ、今後の方向性に議論を進めていきたい。第1点は、特徴の3番目に触れた、災害を引き起こす災害因によって、予測可能性や対応可能性には違いが大きい点に起因する。現状は、レベル化の枠組みに既存の災害情報を当てはめた段階に過ぎない。まず、それぞれのレベルに位置付けられている災害情報が、そのレベルが求める防災行動の基準として適しているか検証が必要である。もちろん、レベルに対応した情報を提供できる災害現象もあれば、現在の技術水準ではレベルに対応した情報を生産できない災害現象もある。現象の規模が小規模になるほど難しくなる。つまり、現時点でのレベル化は、今後の技術開発に向けての技術仕様という役割ならびに情報整理のための枠組みという役割も担っていることになる。中長期的な視野から、継続して取り組んでいく必要がある。
 この技術開発はそれぞれの専門家の手に委ねることになるが、社会の側でもできることはある。特徴の第2点にも触れた住民個々がとるべき防災行動は、現実的には各自の災害環境に依存する。このことを踏まえて、個人的には地形的にみた脆弱性をレベルに反映させられたらと思っている。脆弱なレベル3の地区は防災情報がレベル3になったら、レベル4の地区はレベル4で避難といった考え方だ。それとともに、ハザードマップの表現も、避難の契機や形態といった観点から再検討する必要があると思う。
 警戒レベルの中核はレベル3およびレベル4にある。レベル3そしてレベル4に向けて、予測精度の向上や避難の実現可能性、避難の猶予時間を稼ぐ施設整備など総合防災の進展を望む。

・内閣府, 2008,「噴火時等の避難に係る火山防災体制の指針」,火山情報等に対応した火山防災対策検討会
・国土交通省, 2006, 「洪水等に関する防災用語改善検討会報告書」