熱海で発生した土砂災害の地盤工学的な課題
特集:2021年7月 熱海伊豆山土石流災害の課題
東京電機大学総合研究所 安田進
2021年9月1日
2021年7月3日に熱海市伊豆山地区を土石流が襲った。住民の方が撮影された動画がすぐ昼のニュースで流されたが、広島などで最近発生している土石流と違って大玉石が先頭で走っていなく、黒い泥流が家を壊しながら流れていた。また、1回だけでなく、約20分おきに2,3回と襲い、1回目より激しかったとのことである。
この日は山に雲がかかっていて上流で何が発生したのか分からない状況にあった。夜になって上流の崩壊箇所の写真が入手できたのでGoogle mapで被災前の状況を確認すると、何と法面になっていた。そこで、通常の土石流と違い盛土が崩壊して泥流となって下ったと感じられた。翌日朝日新聞社のヘリコプターに同乗して熱海に飛んだが、残念ながら崩壊箇所はまだ雲に覆われていて見られなかった。ただし、その日には静岡県川勝知事の記者会見で「盛土部分が流された」との発言があり、やはり盛土が崩壊したことが明らかになった。
盛土崩壊箇所の標高は約390mで、小河川の逢初(あいぞめ)川の源頭部付近にあたる。そこから海岸までは約11度の一定の急勾配の斜面となっており、住宅地に出た標高約200m 付近から海岸付近までの延長約1km、最大幅120mの細長い範囲を泥流が襲い131棟が被災した。海岸付近まで被害が及んだのは、一定の急勾配の狭い谷地形が海岸まで続いているためと考えられる。泥流は水を多く含んでいて捜索は困難を極め、7月21日現在でもまだ8名の方が行方不明で捜索活動が続けられている。
盛土の崩壊に関し、発災直後から静岡県と熱海市で調査が行われてきており、その結果は随時公表されてきた。ドローンによる崩壊状況の映像がまず公開され、7月7日からは静岡県難波副知事の記者会見が毎日のように行われYouTubeで公開されてきた。それによると、この付近の土地の改変のうち崩壊した盛土の経緯は、「①2006年にA社が土地を取得し、土の採取計画届出書が提出された。②土砂の搬入を開始し、2010年8月に造成工事が概ね完了した。③その後盛土の中に産業廃棄物が混じっていることが判明し撤去の指導が行われた。④2011年に土地所有者がA社からC者に変更した。⑤盛土高は申請だと15mであったが実際には35~52mの高さで盛られていた。」とのことである。そして、2次災害防止のために緊急に被災の原因を検討してきた結果によると、崩壊した土量は約5.4万m3と推定されている。また、降雨によって盛土内にはいる水は①表流水、②盛土に降ってきた水、③地下浸透してきた水があるが、今回の雨は長く続いてきており、上流部の地中に浸透した地下水が水みちを通って盛土下部を崩し、上部も一気に崩壊したのではないか、と述べられている。
さて、キーワードとなった「盛土」には、道路・鉄道盛土、宅地の盛土、ダムなど様々なものがある。盛土を建設する際には、①良質の盛土材料を用い、②盛土内の地下水位が上がらないように排水設備を設け、③よく締め固める、ことが重要であり、基準に従って建設されてきている。これに対し、ここの盛土は残土処分場のようであり、通常対象にしている盛土ではない。したがって、今回の災害に関して今後以下のような検討が進められる必要があると考えられる。
(1)盛土が行われてきた経緯を整理し、盛土の崩壊・泥流の発生のメカニズムを解明する。
(2)全国に存在する盛土による残土処分場を抽出し、豪雨時や地震時の危険性を検討する。
(3)盛土による残土処分場における豪雨・地震に対する国の建設基準を整備する。