複合災害化と広域巨大災害への備え
特集:東日本大震災から10年-防災対策は何が変わったか?
中林一樹 東京都立大学 名誉教授
2021年3月1日
2010年代は、災害続発の10年であった。犠牲者30人以上の災害は、最大震度7を記録した東日本大震災(2011)、熊本地震(2016)、北海道胆振東部地震(2018)と、台風12号(2011)、広島土砂災害(2014)、台風10号(2016)、九州北部豪雨(2017)、西日本豪雨(2018)、東日本台風(2019)、熊本豪雨(2020)である。その他、大阪北部地震(2018)、台風21号(2018)、房総半島台風(2019)など特徴的な被害をもたらした。こうした続発する災害は、被災地が復旧途上に再び被災して被害が激甚化する事態や、複数の災害に自治体に同時災害対応を余儀なくする事態を引き起こしている。複合災害には、前者の「同時被災型複合災害」と、後者の「同時対応型複合災害」に類型化されるが、災害には、広域巨大災害のみならず、被害の同時被災性と対応の同時対応性とを併有する事象なのである。この複合災害化と広域巨大災害の10年、防災対策はどう展開したか。
「想定外」に備える防災対策
東日本大震災は各界で「想定外」と表された。切迫する南海トラフ巨大地震と首都直下地震を「想定外」としないために、中央防災会議は科学的に想定しうる最大級の地震を検討し被害想定(2013)を公表した。それらを踏まえ、大規模地震対策特別措置法を全面改定した「南海トラフ巨大地震対策特別措置法(2013)」と、初めて首都直下地震を明記した「首都直下地震対策特別措置法(2013)」を制定し、事前防災を推進している。前者の津波対策特別強化地域では事前の高台移転が事業化され、後者では首都機能を継続する政府業務継続計画(BCP)の策定と、都心4区を首都中枢機能維持基盤整備等地区としてライフラインの強化に取り組んでいる。全国の地域でも想定外に備える「国土強靭化基本法(2013)」が制定された。
「巨大災害」に備える復興対策
災害復興は、防災対策として最も財政負担も事業規模も大きいにもかかわらず、東日本大震災時でも災害復興の恒久法制度はなかった。東日本大震災の復興の枠組みを踏まえて、2013年に「大規模災害復興法」と、同時に戦災時法制を廃して「大規模災害借地借家特別措置法」が制定された。「非常災害」「大規模災害」の指定に基づき、復興の体制・計画・事業の特別措置を規定した復興法は、熊本地震で初めて発動され、政府による県事業の代行などが行われた。
災害を回避する「防災土地利用制度」
広島土砂災害(1999)を契機に、土砂災害危険区域を「警戒区域(イエローゾーン)」と「特別警戒区域(レッドゾーン)」に指定し、「特別警戒区域」での建築制限や移転勧告などが土砂災害防止法(2000)で制度化されていた。広島土砂災害(2014)は同法を改正し、都道府県に危険区域の「基礎調査」の19年度以内の完了、「特別警戒区域」など災害リスクの高い場所の公表を義務付けた。しかし人的被害は軽減せず、社会福祉施設が被災した台風10号豪雨災害(2016)を契機に土砂災害防止法・水防法が改定(2017)され、要避難者施設総出の避難対策を強化している。
「地区防災計画」制度の創設
東日本大震災の1万8千人もが津波避難の遅れで犠牲となった。自治体の公助としての避難対策では限界があると、2013年に災害対策基本法を改定し、コミュニティにおける住民の自助・共助が命を守るうえで不可欠と、地区内の居住者及び事業者(地区居住者等)による自発的な防災活動を推進するための「地区防災計画制度」が創設された。
そして、2020年は新型コロナの蔓延下での十年目となった。その状況下での災害は全て、コロナ対応と災害対応の同時対応型複合災害となる。三密防止の避難対策が工夫されているが、それは世界基準(スフィア基準)の避難対策に相当するものであり、高齢社会下での関連死防止のための災害避難基準として、堅持すべきものなのである。