専門分野の横断の推進について

特集:東日本大震災から10年-防災対策は何が変わったか?

目黒公郎 センター長・教授
2021年3月1日

地震防災を含め、わが国の防災研究は世界をリードし、成果としての様々なハードとソフト対策によって、過去の同程度のハザードによる被害を確実に軽減することに成功した。その過程では、他分野と同様に、研究分野の細分化と各分野での研究の深化によって、研究の進展の効率化がはかられた。しかしその一方で、細分化された研究分野の狭間に存在する課題は取り残され、十分な検討がなされてこなかった。また、関連分野全体を統合する力も弱くなっていた。この問題が顕在化したのが東日本大震災である。

東日本大震災で発現した課題の多くは、従来の細分化された研究分野の成果や少数分野の成果の融合では解決できないものであった。これらの課題解決には、従来の防災や災害研究のみならず、関連する多くの分野連携と成果を融合する研究を展開する必要がある。すなわち、専門分野の枠を超え、理工系だけでなく人文・社会科学や生命科学も含めた総合的な研究の持続的な推進と、異なる分野との情報共有や平時からの交流の活性化も必要だ。さらに、研究成果が国や地域の防災対策に反映されるように、行政組織との連携も不可欠である。

これらの点は日本学術会議等でも強く認識され、土木工学・建築学委員会が幹事役となり、「東日本大震災の総合対応に関する学協会連絡会(以下では、学協会連絡会)」が2011年に設立された。「学協会連絡会」では30 学会による連携を進め、同年12月から2016年1月までに、計11回の「学協会連絡会・連続シンポジウム」を行った。復旧・復興の各時点で課題となるテーマを取り上げ、それに深く関わる4,5の学会を幹事学会として、研究発表と討論を行った。シンポジウムは大きな注目を集め、毎回予約は開始とともにいっぱいになり、学術会議の1階の大会議場がいつも満員になった。

「防災学術連携体(以下では、連携体)」は、「学協会連絡会」の発展型として創設されたもので、現在58学会がメンバーとなって、研究成果を防災と災害復興に役立てる活動を行っている。「連携体」は2016年8月から2021年1月までに、11回の防災学術連携シンポジウムを日本学術会議と共催した。また大規模災害が発生すると、すぐに緊急記者会見や報告会を行うとともに、声明や報告、提言などの形で、社会への正確な情報の配信に努めている。さらに、防災推進国民大会(ぼうさい国体)にも積極的に参加している。

日本学術会議も、「学協会連絡会」や「連携体」の活動と連動し、2014年 2 月に「緊急事態における日本学術会議の活動に関する指針」を制定した。これに則り、2015年 7 月に日本学術会議幹事会附置委員会として「防災減災・災害復興に関する学術連携委員会」が設置され、その後に名称を「防災減災学術連携委員会」に変更するととともに、第24期(2017年度~)、第25期(2020年度~)と継続設置され、「連携体」とともに活発な活動を進めている。

    このように、東日本大震災を踏まえ、わが国の防災研究における専門分野の横断や連携は以前に比べて大きく進んだと言える。しかし、時間経過とともに、これらの活動を如何に継続していくか、一過性の活動で終わらせないための仕組みづくりが課題になってきている。