コロナ禍の複合災害

特集:コロナとコロナ禍の防災

関谷直也
2020年9月1日

 新型コロナウイルスは様々な行為のリスク、ベネフィットの比較を否応なく意識させる。病院に行くべきか否か、食事や旅行を避けるべきか否か。災害時において避難するか否かも例外ではない。
 コロナ禍であっても降雨と河川増水に応じて緊急的に避難することは必要だ。「いざというときは躊躇せずに避難場所/避難所へ」という基本は変わらない。地震後の避難や延焼火災の避難の場合も同様である。感染リスクはあっても、迫りくる災害リスクを前に、生命に対する危険を回避するための避難を躊躇すべきではない。だからこそ避難所の感染対策や避難所で密にならないような分散避難などが模索されているところである。
 だが、現在のコロナ禍の災害対策はこの段階で止まっているのが現状だ。
 コロナ患者が出ていない地方での水害時の避難と、市中感染が広がっていると推測される都市部での水害時の避難は考え方が大きく異なる。近年の水害を例にあげる。平成30年西日本豪雨では、避難勧告・指示8,701,208人、避難率0.3%(総務省消防庁第8報)、死者271人、死亡率0.0031%である。令和元年房総半島台風では避難勧告・指示61,979人、避難率1.8%(総務省消防庁第2報)、死者3人、死亡率0.0048%である。令和元年東日本台風では避難勧告・指示6,410,473人(総務省消防庁第4報)、避難率3.6%、死者89人、死亡率0.0014%である。国内の水害での死者は西日本豪雨を除き、多くとも例年200名前後である。一方、新型コロナ感染症の死者は国内で既に1000人を超えている。災害による死者を一人でも減らすとの方針で防災対策は進められているが、現在は必ずしも水害避難だけを考えるわけにはいかない。予防的な避難においては感染リスクと水害でのリスクを天秤にかけながら「避難しない」という選択肢も十分に考える必要がある。
 更に、コロナ禍での広域避難——首都直下地震などにおける広域避難、大規模水害時の広域避難、火山災害時の広域避難、原子力災害時の広域避難——は別の考え方が必要である。広域避難とは被災地から離れ、降灰や放射能、衣食住のリスクのない避難先を求めて移動することである。そして安全な場所に避難するのが前提となるので、避難先では避難生活上の体調悪化とコロナウイルス感染とのリスクを比較することになる。東京電力福島第一原子力発電所事故のときは、最大約半数くらいの人が親戚・知人宅に身を寄せ、避難所に行った人は3割程度であった。そもそも無理に避難所に密集する必要はない。原子力災害、火山災害など種別によらず、生活のために広域避難するのに避難所に行くことを望む人は少ないであろう。このコロナ禍では単なる県外移動や帰省すら難しい。コロナ禍の広域避難の課題は、密にならないように避難所を増やすといった物理的な問題ではなく、受入れ先の自治体や住民の理解といった心理的な問題である。
 コロナウイルスばかりに意識が行きがちな現在も、いつ災害が起こるかはわからない。これらは喫緊の課題である。