11年目以降のCIDERに向けて ~火球(習志野隕石)と地震計~
特集:2020 11年目以降のCIDIRに向けて -CIDIR2.0-
教授 酒井慎一
2020年6月1日
先日、関東地方で火球が目撃された。隕石が大気圏に突入し、光を発するところを多くの人が見たのであろう。地面に激突しなくて良かった、とホッとするだけでなく、どこから飛んできたのだろう、と思ってしまう。火球の軌跡をたどれば、隕石がやってきた経路を推定することができる。隕石の多くは、火星と木星の間の小惑星帯から飛んでくると考えられているが、月や火星の地表の石との説、はるか遠くから来た石との説もあり、その軌跡は、起源の特定に関する重要な情報となる。もし、その隕石のかけらを拾うことができれば、地球にいながら、地球外の物質を手に入れることができ、地球や太陽系の起源に関する貴重な情報が得られるかもしれないのである。その後、千葉県習志野市のマンションで、隕石のかけらが拾われたので、今後は、隕石の成分に関する調査が精力的に進められるであろう。
最近は、監視カメラやドライブレコーダーが、世間にたくさんあり、それらの画像解析で、経路を推定することが可能である。ただ、カメラの撮影時刻や設置角度等には、測定精度のあいまいさが大きい。そのため、映像からは、西方上空から入射し千葉まで飛んだということくらいしかわからない。隕石の起源を確認するのには、ちょっと誤差が大きい。
しかし、地震計を使えば、火球の飛行経路が、かなり正確にわかるのである。隕石は、秒速数十km以上というロケットが打ち上げられるときの速度よりかなり速い速度で大気圏に突入するため、摩擦熱で発光し、それと同時に前面に衝撃波を生成する。その衝撃波が地表に到達したとき、轟音が聴こえるのである(隕石の破裂音ではない)。衝撃波は大気を伝わる疎密波であるため音速と等しいが、隕石の落下速度は音速よりかなり速い。そのため、この衝撃波の波面群は、非常に鋭角な円錐状の形状をしていて、それが地表に到達するときに地面を揺らす。衝撃波が強いと、人体や建物等にも被害が生じることもあり、今回は、この揺れを地震計がとらえていた。地震計の時刻は高精度なため、この衝撃波の到達時刻の分布から、火球の軌跡を正確に推定することができる。
実は、首都直下地震の解明のために稠密な地震観測網(MeSO-net)が稼働している。この地震計は、人工的なノイズを避けるために、主に小中学校の深さ20mに設置されている。連続収録されているため、火球が飛んだ時刻のデータを見たところ、約150地点で、衝撃波によると思われる振動が観測されていた。その時刻の分布から飛行経路を計算すると、山梨県から東京上空を通過し千葉県習志野市付近で崩壊したと言える結果を得た(図)。
このように、地球の内部を知るための地震計が、上空で発生した事象を説明する情報につながり、それが隕石の起源の解明に役立てられるという、思いもよらない利用ができた。これまで30年以上、地震計を使って地面の揺れを測定し、地震がどこでどのようにして起きるのかを研究してきた。このたび、CIDERに加わることとなり、得られた情報を使って社会に何を伝えることができるのか、思いがけない効果をもたらすことができるかどうか、様々な分野の方々と共に取り組んでいきたいと考えている。