忘れられないシーン

特集:田中淳センター長のご退職に寄せて

東日本電信電話株式会社 ネットワーク事業推進本部
サービス運営部 災害対策室(兼ネットワーク統制室)
芳賀一夫
2020年3月1日

 『危機感が人を動かすんだよ、危機感を持たせる情報が避難行動につながり人を救えるんだなぁ・・・』2010年の暮れだったと思います。ライフラインマスコミ連携講座終了後、恒例の「佐とう」での思い出です。
講師の先生が席を立たれた時に、田中先生が隣にいた私の肩に手を沿え、振り向きざまに真顔でボソッとつぶやかれたことが頭から離れません。
 翌年、東日本大震災が発生し、応急復旧が概ね落ち着いた5月中旬、私は東北に通信設備の本格復旧等を担うために新設された組織に赴任しました。瓦礫が散乱する沿岸部周辺をはじめとする被災地での作業や工事が大半で、全国から集まった社員等の安全確保が組織共通の最初の課題でした。
 発災から数ヶ月が経ち、季節が変わり草木が生い茂って瓦礫が視界から消え、灰茶色だった被災地が明るい緑に変化してくると、生々しい津波の爪あとも薄くなるせいか、支援者の多くは津波注意報が発せられても周囲の人の動きにあわせて行動し、避難せずに作業を継続する場面が見られました。防潮堤が破壊され、津波に無抵抗な状態の中で、どのように避難を徹底させるか思い悩んでいた時に、ブわっと頭に浮かんできた映像が「佐とう」での1シーン。空っぽな自分と田中先生の真顔と『危機感が人を動かすんだよ・・・』の言葉でした。これをヒントに、作業開始前の危険予知活動において、自分が作業する場所で何が起き、どれ程、危険な所にいるのか声に出して再認識して津波に対する恐怖感をもって作業に入る、そんな動作を加えたところ、周囲に惑わされない避難行動を定着させることができました。
「佐とう」で印象深く刷り込んでいただいた先生の言葉のおかげです。大変お世話になりました。今後も多様な場面でご指導いただければ幸いです。