田中淳先生が引っ張ってきた日本の防災対策
特集:田中淳センター長のご退職に寄せて
国士舘大学防災・救急救助総合研究所 教授 山﨑登
2020年3月1日
田中淳先生は災害情報のあり方で日本の防災対策を牽引されてこられた。2017年まで、私はNHKで自然災害と防災を担当する解説委員をしていたが、気象庁や国土交通省などの新しい災害情報を考える検討会で田中先生にお会いする機会が多くあった。そしてきめ細かく、わかりやすい情報を出すことに尽力された田中先生の強い気持ちに教えられた。
最近、様々な自然災害の分野で、被害を減らすための情報の役割が重くなってきている。背景にあるのは、想定を超える東日本大震災の発生や西日本豪雨や台風19号災害のような豪雨が降るようになり、従来の防災対策だけで住民の安全を確保することが難しくなったためだ。そこで危険が迫った地域の住民に避難してもらおうと、この10年ほどの間に危険を知らせる情報の整備が次々に進められた。
たとえば「計画高水位」や「警戒水位」という河川管理者の名称しかなかった河川の水位の名称が、2007年に「避難判断水位」や「氾濫危険水位」という住民の目線に立った名称に変わった。同じ年に、地震の大きな揺れの前に揺れを知らせる緊急地震速報と火山の活動度と警戒範囲がセットになった噴火警報が始まった。その後も2008年には大規模な土砂災害の危険性が迫っていることを知らせる「土砂災害警戒情報」、竜巻が発生してもおかしくないことを伝える「竜巻注意情報」、2013年には重大な災害が起こる恐れがあることを知らせる「特別警報」などが作られた。それらの災害情報の検討会の多くで田中先生は座長を務められ、情報の整備に向けた議論を引っ張られたのだ。
また熊本地震や西日本豪雨などの災害現場に一緒に行き、様々な意見や感想などをうかがう機会もあった。その際印象深かったのは、災害弱者と呼ばれる高齢者や障害者などへの優しい目線だ。先生は災害が常に弱い立場の人に大きな被害をもたらすことを防災対策の基本にされていた。
高齢化社会の急速な進展によって、高齢者など災害弱者が犠牲になる割合が増している。今後は情報を出す側だけでなく、受け取る側のリテラシーを高めるとともに、高齢者などに配慮した社会のセーフティネットを考えなくてはいけない。だからこそ田中先生にはこれからも被災者に寄り添った視線で、この国の防災対策を引っ張っていって欲しいと願っている。