「大雨から生命を守る」テレビ災害報道 「警戒レベル」で何が変わり 何を変えるか
特集:平成30年7月豪雨の教訓より
日本テレビ放送網 報道局ニュースセンター 専任部長 谷原和憲
2019年12月1日
テレビの災害報道の使命のひとつに「リアルタイムメディアゆえ、被災地の生命を守る報道」がある。昨年末、西日本豪雨の教訓を話し合った内閣府の会議が「自分で自分を守る防災」を打ち出し、その柱として「警戒レベル」導入を決めた。新たな「警戒レベル」をどう伝えるか? 出水期まで半年しかなかったが、「被災地の生命を守る」テレビの災害報道は各局が工夫を凝らした。
毎年「顔が違う」豪雨災害と向き合って
テレビで大雨をどう伝えるか? 災害報道の現場ではこのところ毎年のように悩み、もがいている。2017年の九州北部豪雨は「局所的・集中的な大雨」で、その最中・直後に土砂災害が山里を襲った。記録的短時間大雨情報や土砂災害発生の通報など実況速報的な情報を大切にして防災行動を取るしかない、特別警報を待っていては間に合わない、と痛感した。
その翌年、2018年の西日本豪雨は、九州北部豪雨とは違い「長くだらだら降る大雨」だった。前年の教訓もあり、広島や岡山の放送局では、特別警報が出る前の夕方のローカルニュースを「大雨一色」にして警戒を呼びかけた。しかし、その夜に「広範囲で同時多発的な土砂災害」「ハザードマップが想定した最悪の河川氾濫」が起きるとまで想像が及ばなかった。
「初めての警戒レベル」 テレビで出来ること
その西日本豪雨の教訓を踏まえ今年生まれた「警戒レベル」。視聴者に「初めての災害情報」を理解してもらうには、平時も有事も、とにかく「露出を多く」するしかない。そこで出てきたのが「警戒レベル5段階インデックス」だ。日本テレビの例を図に示す。これを、大雨のニュースで避難情報を伝える時も、あるいは現場中継や被害情報を伝える時でも、可能な限り画面の左下に「出しっぱなし」で露出する。ある意味「刷り込み」だ。
レベルごとの色使いは各局ほぼ同じになった。「自分で決める」主役の視聴者に短時間で受け入れてもらうには、他の情報との混乱を避けるのが第一。これまでの災害報道で視聴者の親和性が高い防災気象情報の色使いをベースにした。レベルごとの説明は内閣府の普及パンフレットなどからキーワードを抽出した。日本テレビでは、レベル5のキーワードをあえて「命の危険」とした。レベル1~4とのつながりで言えば、行動指示的な表現の方がまとまりは良いが、警戒レベル導入のコンセプト「レベル4のうちに逃げて!」を際立たせたかった。このインデックスはレベル4の時の放送でも出ているので、5になる前に「5になってからではダメだ!」と気付いてもらえれば…と考えた。
この「警戒レベル5段階インデックス」を初めてOAしたのは6月7日、前線のよる大雨で広島・山口・愛媛で避難勧告が出た時だ。その後、九州南部や北部の大雨、台風15号、そして台風19号と大きな災害が続き、結果的に警戒レベルは豪雨災害報道の定番として浸透し始めた。
レベル化されて伝えやすくなった点もある。例えば「警戒レベルが3から4に上がった」など、数字が増えるという誰もが変化を理解しやすい表現で、災害の状況変化(悪化)を誤解なく伝えることが出来る。極端な話、避難勧告や避難指示という言葉を知らない人が相手でも「警戒レベル3だったのが4に上がりました」と伝えれば、前より大変な事態になっているという危機感だけは感じてもらえる。
その一方、早くも視聴者の立場からの素朴な疑問も浮かび上がっている。例えば、急激な大雨の場合、特別警報でレベル5(相当)になった後に、どうして、ひとつ下のレベル4の避難勧告が出るの? 雨のレベル5の特別警報は解除されても、川のレベル5の氾濫発生は別物なの?…などなど。運用を続けるためには、情報発信側とともに、さらなる工夫・改善が必要だ。
「警戒レベル」を使いこなす社会とは
「警戒レベル」は10月に開かれた日本災害情報学会大会の発表でも取り上げられた。そこでは「警戒レベルを使いこなす社会のあり方」が議論になった。東洋大・及川康教授は「各個人が防災気象情報と警戒レベルを紐付けられれば、避難情報は不要では」と問題提起した。情報内容的にコピー感があるのは確かだ。しかし伝達の点では、地域のつながりが強い所ほど「身近な人が伝える」のが有効で、その情報源は「身近な自治体」である市町村が担ってきたという背景もある。愛知工業大・横田崇教授は「避難の前段階で様子見をせず、自宅に帰ってハザードマップを確認しては」と提案した。職住一致でない勤め人にとっては、まずは会社の理解が得られるか?から始まる。しかし会社にとっても、最初は帰宅を許可して戦力ダウンになるが、そこで家族でハザードマップを確認することでリスクを共有してもらえれば、次の災害では帰宅不要、会社を守る戦力になることもある。警戒レベルをきっかけに、個人か変わり、社会も変わる可能性を秘めているかもしれない。そうなればテレビの災害報道の重点も変わる。現在の「説明だけでなく、わかりやすい行動指示も」という形から、将来的に「可能性に幅があるなかで個人が選択出来る、わかりやすい状況解説を優先」となるなら、災害報道は新たなステージといえる。
しかし当面、いまと向きあう最前線の報道現場としては、まず「警戒レベルをもっと使い勝手よく」するしかない。平時の防災教育での「警戒レベル」の普及と「被災地の生命を守る」両輪となりながら。