主体性の防災へパラダイムシフトを目指して

特集:平成30年7月豪雨の教訓より

片田敏孝
2019年12月1日

 平成30年7月の西日本豪雨に続き、令和元年台風19号と広域豪雨災害が続くなか、防災における住民の主体性が議論されることが多くなった。西日本豪雨を議論した中央防災会議のワーキンググループの報告書では、命を守る観点において行政対応の限界を明記し、行政に委ねるなとまで言い切って、災害に向かい合う主体性を広く国民に訴えた。
 あまりに激甚な災害が重なる中で、行政主導の防災の限界は認めざるを得ず、それと同時に住民に主体性が求められることにも理解が得られるようになっている。しかし、長年にわたり行政主導の防災が続いたわが国にあって、住民は既に災害過保護とでも言うべき状態にあり、住民主体の防災に転換することの必要性は理解したとしても、いざその時となって自らの行動を具体化する能力を失った状態に陥っている。一部に防災活動に熱心に取り組む動きも生じ始めているが、度重なる激甚災害を経て、もって行き場のない不安を募らせた国民は、控えめながらも再び行政への対応強化を期待し始めている。
 長年のなかで醸成された行政依存体質を脱し、国民が命を守る主体性を獲得することには時間を要するが、それを成し遂げない限りわが国の防災は混迷から抜け出せないのではないだろうか。