型があるから型破り
防災コラム
沼田宗純
2019年9月1日
災害対策トレーニングセンター(DMTC)では、現在の災害対策の改善の糸口は、「型」にあると考えています。「型があるから型破り」「型が無ければ、それは単なる形無し」です。これは歌舞伎役者の故・中村勘三郎氏の言葉ですが、基本があってこそ、イノベーティブで大胆な試みができるという意味です。 幕末の世、一般庶民は寺小屋において「徒然草」等の古典を、武士の子弟が通う藩校では論語等「四書五経」の素読・暗唱等が学習の中心でした。声に出して素読や暗唱を何千回と繰り返すことによって、心の奥にある魂が鍛えられる仕組みがありました。そして魂に記憶された言葉は、人生の様々な場面で蘇り、生きて働きました。明治維新はこうした学習の延長にあります。さらに、我が国は、「守破離」のように、型を大切にしてきました。守破離とは、茶道、武道、芸術等における師弟関係のあり方の一つであり、文化が発展、進化してきた創造的な過程のベースとなっている思想でもあります。
現在の防災教育。想像力を養うために、「自由に発想しなさい、工夫して考えなさい」と受講生に投げ掛ける手法がありますが、基礎的な型がない受講生にこのような自由な問いかけをしても、思考力や想像力を育成するための学習効果は低く、また実際の災害現場におけるOJT(On the Job Training)も型がなければ、決して効率的な災害対応にはつながりません。災害対策では、多様な思考力が求められますが、基本知識や基本動作があって初めて、地域特性や環境特性に対応できると考えます。
参考)出口正博:「型」から始まる、新教育者連盟:生命の教育 平成30年5月号 p.21