御嶽山火山マイスター

特集:2014年御嶽山噴火災害から5年 火山防災はどのように変わったか?

山梨大学地域防災・マネジメント研究センター 准教授
秦康範
2019年9月1日

 木曽地域では、2014年御嶽山噴火災害を受け、火山との共生が模索されている。火山災害の特徴の1つは、一部の活発な火山を除いて、その活動の周期が非常に長いことである。教訓をいかにして後世に伝えていくのかは大きな課題となっている。本稿では、その解決策である「御嶽山火山マイスター」について紹介する。

1.経緯
 国は中央防災会議・防災対策実行会議に火山防災対策推進ワーキンググループ(主査:藤井敏嗣東京大学名誉教授)を設置し、「御嶽山噴火を踏まえた今後の火山防災対策の推進について(報告)」として2015年3月にとりまとめた。この報告を受けて、長野県は2016年6月に「長野県火山防災のあり方検討会」を設置し、2017年2月に報告書をとりまとめた。同報告書において、「御嶽山周辺地域において長期的視野での火山防災に関する知識の普及・啓発を目的とした人材活用制度、「(仮)御嶽山マイスター制度」の創設を提案」したことが、制度発足の直接のきっかけである。同制度は、先進事例である「洞爺湖有珠火山マイスター制度」を参考にしつつ、有珠山と御嶽山の相違点や木曽地域の現状を踏まえた長野県の独自制度である。
 御嶽山火山マイスター制度を創設するにあたり議論となったのは、有珠山とは大きく異なる火山としての御嶽山の相違点である。下記の3点を上げたい。①過去に噴火による居住地への直接被害はなく、住民の噴火災害の経験値は低い。②想定される火口の位置は山頂周辺に限定され、噴火のリスクは主に登山者にある。③観測データの蓄積が乏しく(1979年に有史以来初の噴火が発生)、近年の4度の噴火は水蒸気噴火であり、高い確率での噴火の予測が困難である。

2.御嶽山火山マイスター
 マイスター制度は資格制度なのか? 疑問に思われる方も多い。ドイツのマイスター制度は、高等職業能力資格認定制度を意味する。しかし、洞爺湖有珠火山マイスターがそうであるように、御嶽山火山マイスターは資格制度ではない。認定は長野県木曽地域振興局に設置された御嶽山火山マイスター運営委員会(委員長:山岡耕春名古屋大学教授)が行う。しかし、マイスターに認定されたからといって仕事が提供されるわけでもなく、何かができる資格や免許が得られるわけでもない。マイスターは、火山防災の啓発や魅力発信の推進役を主体的に担う存在として期待されている。そのため、認定審査では、「御嶽山地域に貢献しようとする情熱と主体性を持っているか」、「御嶽山と地域の共生を踏まえた将来のビジョンを持っているか」、「自らが認定後に行いたい活動に対するマネジメント力、具現性を持っているか」が審査される。
 こうした審査を経て、2018年3月に1期生8人、2019年3月に2期生3人が認定されている。山小屋経営者、山岳ガイド、教員、観光従事者、タウン誌編集者、役場職員等、多彩なメンバーとなっており、FacebookやTwitterを用いて積極的に情報発信を行っている。マイスターが今後どういった取組を展開させるのか、皆さんも注目していただきたい。

秦・写真1.png

写真1 御嶽山火山マイスター 
上段左から澤田義幸、向井修一、川上明宏、小林夏樹
中段左から笹川隆広、竹脇聡、立花裕美子、稗田実
下段左から小池優紀夫、近藤裕吾、高橋俊吾(敬称略)
上段・中段は1期生、下段は2期生
写真提供 御嶽山火山マイスターネットワーク 

3.御嶽山ジュニア火山マイスター
 御嶽山火山マイスターネットワーク(マイスターがつくる自主組織)は、子どものうちから御嶽山の歴史や文化、火山防災に関心を持ってもらうことを目的とした、「御嶽山ジュニア火山マイスター」制度を2018年9月に創設した。2019年8月現在、三岳小学校25名、開田中学校16名、木曽町中学校8名、福島小学校3名が認定されている。ジュニア火山マイスターの育成において、特筆すべき事が2つある。1つは、火山の防災と恵みの両方を学び、特に御嶽山の魅力を自分たちで発信していくことに力点が置かれていることである。これにより地域の魅力の再発見につながり、地域への愛着が醸成されることが期待される。もう1つは、地域住民と積極的に連携していることである。教員は異動することから、地域の大人達を巻き込み、地域のイベントにすることで持続可能な取組を目指している。
写真2は、三岳小学校6年生8人が制作した御嶽古道の案内看板(木曽福島駅に設置)である。登山コースや見どころとともに、山頂に設置されたシェルターなどを記し、御嶽山の魅力を広く伝える思いが込められている。なお、同制度にはジュニアマイスターから最上位の「レジェンドマイスター」まで7段階設けられており、今後ランクアップして活躍の場が広がることが想定されている。

写真2 御嶽古道案内看板