西日本豪雨災害調査で感じたこと
特集:2018年度の災害を振り返って
一般社団法人 全国地質調在業協会連合会 須見徹太郎
2019年3月1日
日本災害情報学会では、西日本豪雨災害に関して調査団を結成し、岡山県、広島県、愛媛県の3 県で調査を行っているが、このうち岡山県担当の班長として、自治体ヒアリングなど数回の現地調査に参加したので、この調杏を通じて感じた幾つかのことを記す。
1・行政の災害検証が充実してきた
今回の災害に関し、国土交通省は「大規模広域豪雨を踏まえた水災害災策検討小委員会」において、ダム、士砂災害、都市浸水対策に関する検討会とも連携した検証が行われた。また、内閣府は「平成30年7月豪雨による水害・土砂災害からの避難に関するWG」、気象庁は「防災気象情報の伝え方に関する検討会」、農林水産省でも治山対策、ため池対策に関する検討チームで検証を実施している。さらに、地方整備局による小田川堤防調査委員会、野村ダム・鹿野川ダムの検証の場、岡山県、広島県、岐阜県による検討会・検証委員会でも検証が行われている。それぞれの委員会等では、必要に応じてアンケート調査等も実施されている。
10 年ほど前、日本災害情報学会が2008年8月末豪雨調査団により、主として岡崎市、名古屋市、金沢市の調査を行った頃には、こうした災害後の行政対応や災害情報のあり方等に関する調査や検証は、学会調査団など学術の分野が担っているものと自負していたが、最近では、上述のように行政が主休的に行うことが当たり前となってきている。行政における防災の主流化の現れと言っても良い。それに伴い、学術の分野の災害調査・検証の役割も変革せざるを得ない。行政の災害検証を前提に、行政が行政を検証することの陥穽も含め、一層の深掘が求められていると思う。
2・災害情報の量から質へ
いくつかの検証委員会でも指摘されていることではあるが、今や自治体の防災担当者にとって、災害時の情報氾濫が起こっているのが現状で、自治体によっては情報のトリアージも十分にできていない。災害対応のため意味のある情報は何かを見極めることが重要であるが、防災対応に必ずしも通暁していない自治体職員に対する支援をどうするか検討が必要だろう。今回の調査でも「気象台や国の河川事務所からのホットラインによるアドバイスが助かったが、県管理河川についてのアドバイス情報がなかった」との声があった。また「高梁川上流のダムの放流量に注目していたが、それぞれの放流量が下流でいつどのような影響を及ぼすのかという情報が欲しかった」との指摘もあった。災害対応の現場で役に立つ防災情報となるよう質の議論が必要だと思う。
3・古い仕組みの刷新が必要ではないか
現地調査で真備町のボランティアセンターにも訪問したが、企業やNPO 団体等の協力のもとICT による情報化が進んでいた。具体的には、IT DARTによるPC等の貸与、タブレットPC による被災者情報管理、LINE WORKSによるファイルやスケジュールの共用、ウェッブを使ったボランティア受付システム、「スマートサプライ」での物資支援などである。
一方、行政側では、ある自治体で外部との情報のやり取りで最も困ったのは「県庁その他から来るファックスと着信確認に手間を取られたこと」であり、また「発電ダムの放流量情報は、専用回線の電話応答システムで得ている」という話もあった。こうした水防や河川情報で旧来から使われている情報伝達の仕組みが、今や災害対応の現場で支障になっている。最新の技術も取り込んで伝達の仕組みを見直し、刷新すべきである。
また、真備町の小田川や末政川、高馬川の破堤については、国の河川事務所や県でもリアルタイムでは把握しておらず、事後に住民からの情報や水位計情報などから推定している。本来であれば、水防法に基づき、地域の水防団(消防団)が堤防の巡視を行い、危険が発生した際には河川管理者に通報することとされているが、地域における水防団(消防団)の弱体化に伴い、このような仕組みが機能しなくなっている。危機管理型水位計の整備などが進められているが、抜本的な対応が必要だと思う。
4・押しかけ支援が機能するためには
今回の水害では、初めて総務省の被災市区町村応援職員確保システムが発動し、被災自治体への対口支援が行われた。また、防災科学技術研究所のISUT も県庁へ派遣された。対口支援の評価については、非常に助かったと評価する自治体があるー方で、現場で混乱があったとする意見もあった。このような「押しかけ支援」については、事前の支援・受援双方の準備が菫要であり、今回の経験を踏まえ、南海トラフ地霞などの大規模災害も対応できるような体制整備が必要だと思う。