全国地震動予測地図における地震の確率表現とリスク認知

CIDIR Report

齋藤さやか
2017年9月1日

 地震動予測地図には、「今後30年以内に各地点で震度6弱以上の揺れに見舞われる確率」が色別に表示されている。そこに示される地震発生の確率表現に対し、見る人はいかに「不安」や「対策の必要性」を感じているか。地図では3%以上であれば発生確率が「高い」とされるが、より日常的な天気予報の降水確率などと比較すると、3%はなかなかイメージすることが難しい数値であろう。2016年4月に熊本地震が発生した際、「益城町で8%と比較的低かったが、マグニチュード7.3の大地震が起きた」と報じられている(『朝日新聞』2016年6月11日)。また、地震調査研究推進本部によるこれまでの調査では「発生確率で示されても意味がわからない」、「確率を計算する期間(30年)が長すぎる」といった声が示されている。専門家が示す地震動予測地図の確率表現と、一般的なリスク認知の間にはギャップがあると考えられる。そこで、地図に表示されている「30年確率」を軸に、ポアソン分布に従い「5年確率」(5年以内に発生する確率%)、「1年確率」(1年以内に発生する確率%)、さらに「平均発生間隔」(〇年に1回)といった表現に換算し(表1)、その影響について調査を行った。地図で確率が高いとされる3%の他、より濃い赤で示され区切りとなっている「26%」、及び、先行の研究で人がリスクに敏感になると示されている「50%」を設定した。
 調査は2017年3月、全国20~60代の男女個人、性・年代均等割付で、2,400人を対象に実施した。結果からわかったことは、科学的には同じ地震発生確率でも、表現方法によって人の認知のされ方が大きく異なることである(図1)。図において□で囲った枠内、例えば一番下の「30年以内に50%」とその3~4行上の「1年以内に2.3%」、「43.5年に1回」は、統計的にはすべて同じ確率であることを示しているにもかかわらず、「非常に不安を感じる」人の割合は、2.5倍以上の差がある。感じる「不安」についてと同様に、地震に対する「対策の必要性」の認識についても調査したが、同じように%の高さに応じて、必要性を認識していることがわかった。すなわち、人は確率の数値の大きさに最も影響を受けて、判断しているのである。
 こうしたことから、地震動予測地図の確率表現について「30年は期間が長すぎてわかりにくい」との理由から、5年確率・1年確率を採用するとどうなるか。
 その分、%で表示される数値は低くなるため危機感が伝わりにくくなるのではないか。そうした点に留意し、地震発生のリスクを伝達していく方法を考えていく必要がある。今後さらに、より効果的なリスクの表現方法について検討していく予定である。

表1 確率表現換算表
図1 地震の確率表現とリスク認知に関する調査結果