CIDIR定期調査

CIDIR Report

田中淳
2017年3月1日


 総合防災情報研究センターでは、災害情報の認知度や防災意識の動向に関する客観的な基礎データを長期にわたって蓄積し、災害情報の課題を分析することを目的に、定期調査を年1回実施してきた。本稿では、2016年度の災害の発生状況を踏まえて、主な結果を紹介していくことにしたい。
 2016年度には4月に熊本地震、10月には鳥取県の中部を震源とする地震、11月には福島県に対して津波警報が発表されるなど地震災害が発生した。また台風10号が東北地方太平洋岸に統計開始以降初めて上陸し、北海道に3個上陸するなどして大きな被害をもたらした。
 このような災害発生状況を反映して、日常生活の中で感じる不安の中で「自分新や家族の健康」や「景気動向」を抑えて、「年金や社会保障」についで2番目に多くあげられている。自然災害の種別にみると、地震に「非常に不安」および「やや不安」を感じる比率を合わせて84.6%(昨年度81.1%)の人が不安を感じると回答している。
 不安の増加と一致して、地震災害を話題にした人が多い。なかでも、熊本地震については、51.6%の人が家族や友人、同僚などと話をしたとしており、60.2%の人が話題にした東日本大震災についで第2位となっている。しかも、図1に、一番高かった九州の率を1としたときの他地域の比率を示したが、九州だけではなく、全国的な話題となっている。
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図1:熊本地震と台風10号の話題率

 加えて、この東日本大震災の話題率は2011年度調査の76.5%から下げてきていたのが、今年度は前述した60.2%まで戻しており、阪神・淡路大震災も昨年度調査の28.7%から36.8%へと率をあげている。161名が死亡、重傷1,087名、全壊8,369棟という大きな被害をもたらした熊本地震の発生によって、過去に他の地域で発生した地震災害についても話題に取り上げられていたことになる。
 その一方で、河川のはん濫に不安を感じる人は36.8%(昨年度38.7%)にとどまっており、噴火災害に不安を感じる人も27.8%(33.7%)に留まっている。同様に、岩手県に上陸した平成28年台風10号に関して話題にした人は、火山噴火や河川はん濫の影響を受ける人は全員ではないこともあるが、10.7%に留まっている。図1に示したように、東北以外では率は低い。

図2:災害情報の認知率

 この平成28年度台風10号による高齢者の被災を受けて、国は避難準備情報の名称を避難準備・高齢者等避難開始へと変更した。この災害による死者22名のうち9名を高齢者福祉施設の入所が占め、それ以外にも70歳代以上の犠牲者が7名を占めていた。その一因として、避難準備情報の意味と趣旨とが理解されていなかったことが指摘されたためである。図2に示したように、避難準備情報の認知率は徐々に上がりつつあったが、2015年度調査で22.9%に、そして今年度調査でやっと28.1%と3割近くに達した。
 災害情報の定着には時間がかかる。このことを考えると、情報の表現をその意図に沿って揃えることが必要である。今回の名称変更に際しても他の災害情報と共通のカラーリングの検討が提案されたのもその一つであろう。