熊本地震からの復興における被災者の復興観

CIDIR Report

明治大学情報コミュニケーション学部 専任講師 小林秀行
2017年3月1日

 平成28年4月16日に発生した熊本地震では、14日の前震と合わせて2度にわたる最大深度7の揺れが、熊本市や益城町、南阿蘇村などを中心とした被災地一帯に、死者161名、重軽傷者2,692名という甚大な被害をもたらした。また、住宅被害についても、全半壊40,847棟、一部損壊146,382棟と多くの住宅が損害を受け、被災者は仮設住宅などでの避難生活を余儀なくされている(内閣府,2016)。この2度の震度7を巡っては「前震」「本震」「余震」の判定について、科学技術につきまとう不確実性の問題が顕在化し、不確実性をともなう科学技術を前提とした災害情報のあり方が再審されているところであろう。
 他方、大規模災害の常として、大きな被害をこうむることとなった被災地では、災害復興に向けた取り組みが一歩一歩、着実に進められていくこととなる。この復興という取り組みについて、我が国ではこれまで公共工事による社会基盤整備を中心に災害復興が構想されてきたが、昨今では被災地の今後の社会・経済のあり方までを復興に含め、しかもそれを被災者である住民の方々による熟議を通して慎重に模索していこうとする熟慮型の復興が重要視されてきている。
 東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センターでは、熊本地震の被災者がこのような災害復興のあり方をどのように捉えているのかを把握するために、webアンケート調査を実施した。調査地点は熊本県内で震度5強以上を観測した自治体及び福岡県福岡市とし、最大震度や地理的な条件から、①熊本市中央区・北区・南区、②熊本市東区、③益城町・南阿蘇村ほか熊本市周辺自治体、④福岡市の4調査地点として整理した。調査対象は地震当時、調査地点に居住していたwebアンケートモニターから選出し、各調査地点につき性年代で割り付けをした100名、合計400名に対して調査を行った。調査は平成28年12月1日~6日に実施し、モニターの不足によって回答を得られなかった調査地点が存在したため、398名からの回答を得た。
 調査結果について、調査協力者の地震による被害状況を簡単に述べておくと、ケガや家屋全半壊など大きな被害を受けたと回答したのは181名(45.4%)、屋根瓦の落下やガラスの飛散など中程度の被害を受けたのが85名(21.3%)、被害がなかったと回答したのは132名(31.1%)であり、福岡市でも46.2%がケガや家屋全半壊などの被害に見舞われたと回答している。
 このような被害を受けた調査協力者の復興観を調査地点別にみてみると、たとえば「復興は(A)迅速さと(B)慎重さどちらを重視すべきか」という質問では、基本的にはいずれの調査地点でも迅速な復興を重視する回答が高いが、熊本市中央区ほか及び熊本市東区では、約20%が慎重さを重視すべきと回答しており、他の2地点に比べて約10ポイント高くなっている。被害状況と比べてみると、被害を受けた調査協力者が多い調査地点の方が、迅速な復興を求めているとみることができる。年代別にみると、20歳代から40歳代までは迅速さを重視する回答が50%前後であるのに対し、50歳代以上では55%前後と若干ながら壮年以上の方が迅速さを重視するという結果がみられた。反面で、慎重さを求める回答は20歳代・30歳代が約20%となっており、40歳代以上が12%前後となっているのに比べてやや高くなっている。
 よって、調査からは被害を受けた壮年以上の調査協力者ほど、迅速な復興を重視しているとみることができる。このような傾向は、これまでの災害でみられてきた傾向に合致するものであり、こうした意見を背景として社会基盤を中心とした既存の災害復興が再び行われていく可能性は十分にありうる。すでに各被災自治体では復興計画が策定され、平成29年度からは復興事業も本格化していくことが予想されるなかで、われわれはここで再度、迅速性というものが被災地にとって本当に最良の考え方であるのかを再検討する必要があるのではないだろうか。

図1:地点別に見た調査協力者の被害状況
図2:復興は(A)迅速さと(B)慎重さどちらを重視すべきか