次世代の防災・災害対策・復興の研究にかかる人材育成をどう考えるか
特集:次世代の防災分野の人材育成を目指して
関谷直也
2017年3月1日
日本では、近年、これだけ災害が多発しているにも関わらず、防災・災害対策の専門家の養成、防災・災害研究に関連する人材育成が、非常に手薄である。東日本大震災から6年が経過し、様々な分野での震災後の喧騒も薄れ、防災関連組織、行政・企業・大学・メディア・NPO/NGOにおいて、災害対策に関する意識は明らかに低下している。人事異動なども加わり、当時の教訓や課題点の曖昧化も急激に進んでいる。この近年の災害経験を次に活かし、次の大規模災害で人材不足という同じ轍を繰り返さないためには、防災専門教育の基礎を構築する必要があるのだが、その取り組みは進んでいるとは言えない。
行政分野の研修としては、ジョブローテーションを前提にした地方公共団体職員の防災担当者を対象にした内閣府「防災スペシャリスト養成研修」研修、人と防災未来センター災害対策専門研修「マネジメントコース」がある。民間においても地域防災の担い手の育成として日本防災士機構「防災士講座」などがある(これは多くの企業・行政関係者も受講している)。いずれも、近年、行政機関を中心として防災についての基礎的な知識を身に着ける必要性があり、これらのコースの設計・充実化がなされてきた。
だが、防災・災害対策にかかる研究者・高度職業人の人材育成は不十分である。大学や大学院などにおける専門教育としても、政策研究院大学院大学、関西大学社会安全学部、常葉大学社会環境学部、静岡大学ふじのくに防災フェロー養成講座など増えつつあるものの、近年で劇的に増えているというわけではない。
研究としても、「防災」という独自の研究手法・研究内容を持った学としてのディシプリンが形成されるまでに成長していない。現在、いわゆる「防災研究者」と名乗る人々は地震学、工学、土木、社会学、社会心理学など種々の様々な専門を基礎としつつも、それぞれの分野から防災についてアプローチし、また他の防災研究者として共同して防災という研究分野にとりくんできているが、横断的なマネジメントを行える人材、継続的にこの研究分野を志ざす人材を養成する研究・教育組織が構築されているわけではない。
東京大学内においても、東日本大震災以降、個別の分野からの防災・災害対策の分野に対する研究は増えてきている。工学系研究科に「復興デザイン研究体」が設立されるなど、防災・災害対策・復興などにかかわる教育・研究を行う組織は着実に増えてきている。東京大学では、防災・災害対策にかかわる研究者数は日本随一であり、関心を持つ学生は増えてきているし、その人材育成にかかる潜在的な社会的な要請、社会的ニーズは明らかである。だが防災・災害対策・復興を担う人材育成という面での学内外の連携は不十分である。
東日本大震災をみれば明らかなように、災害は常に新しい課題を突き付ける。社会、情報システム、制度も年単位で変化する。防災・災害対策・復興や危機管理が、社会における科学・技術であり、その本質がマネジメントにあるとすれば、重要なことは基礎研究・技術・システム開発だけをできる人材ではない。防災行政や制度、危機管理などの知識と姿勢を身に着けたうえで、それらと科学・技術との接点を考えることのできる人材育成こそが要諦である。
また、われわれは東日本大震災を経験し、防災・災害・復興を考えるには様々な専門分野・研究領域、また実務の知識が必要なことが明らかになった。従来からの災害に関する専門分野である地震、火山、気象、砂防、河川工学、土木工学など様々な基礎研究や観測技術、ハード設備の構築、システム開発、防災に関連する社会制度を十二分に理解した上で、法制度・経済など社会科学系、自然科学系、医学系など、各々のディシプリンにおける知見を十分に生かしつつ、異分野と協同して防災という課題にアプローチする、防災研究を担うことのできる研究者(およびそれに準じた能力をもつ高度職業人)を養成していくことが必要なのである。
御嶽山噴火を教訓に、文部科学省の事業として2017年より「次世代火山研究・人材育成総合プロジェクト(http://www.kazan-pj.jp/forum2017)」がスタートした。火山研究を担う研究大学が連携して次世代の火山観測・予測・対策など火山研究を担える人材を、養成しようというものである。いうまでもなく、火山に限らず、日本は今後おこりうる首都直下地震、巨大津波、大規模水害、大規模噴火などに備えることが急務であるのだから、これに関する人材育成も必要不可欠である。
広く様々な災害に対応できる、次世代防災・災害対策の研究者・実務家の養成が必要な時期にきている。これらを実現するためには、学内外の協力が必要不可欠である。東京大学においては防災・災害・復興を担う人材育成を構築するため、CIDIRがその礎になるべく、学内外における連携体制のハブとして尽力していきたい。