『企業の危機管理に関する調査』結果報告
特集:企業の危機管理
企業広報戦略研究所 上席研究員 北見幸一
2015年12月1日
企業広報戦略研究所(電通パブリックリレーションズ内)では、今年の2月から3月にかけて、東京大学大学院情報学環 総合防災情報研究センターと共同で「企業の危機管理に関する調査」を実施した。調査は、主に企業(日本企業と外資系企業)を対象とした調査(以下、企業対象調査)と、報道関係者を対象とした調査(以下、メディア対象調査)の2種類の調査である。企業対象調査は392社、メディア対象調査は177名から回答を得た。
■5つの軸から危機管理力を評価する「ペンタゴンモデル」
多くの企業の危機管理に関する活動を評価するための評価モデル「危機管理ペンタゴンモデル」を開発した。独自に設定した5つの力「リーダーシップ力」「予見力」「回避力」「被害軽減力」「再発防止力」を数値化した。
それぞれの力は、次のように定義している。「①リーダーシップ力:組織的な危機管理力向上に対するトップなど経営陣のコミュニケーション・実行力」、「②予見力:将来、自社に影響を与える可能性がある「危機」を予見し、組織的に共有する力」、「③回避力:危機の発生を未然に予防・回避、または、危機の発生を事前に想定し、影響を低減する組織的能力」、「④被害軽減力:危機が発生した場合に、迅速・的確に対応し、ステークホルダーや自社が受ける被害を軽減する組織的能力」、「⑤再発防止力:危機発生の経験と向き合い、より効果的な危機管理や社会的信頼の回復を実現していく組織的能力」。
調査データを基に、15業種の危機管理力を業種ごとに評価した、ランキングすると、1位は圧倒的に「電力・ガス」、2位は「食品」、3位は「運輸・倉庫」、4位は「金融・証券・保険」と危機に直面することが多い業種が並んでいる(図1)。調査後、様々な回答企業を訪問してヒアリングを実施したが、危機を経験したことがある企業は、危機管理活動をしっかり実施している。過去に経験した危機事象を踏まえ対応策を実践しているのである。
危機管理力が平均以下となったのは8業種であった。特に「卸売・小売」、「情報・通信」、「その他」、「機械」の「リーダーシップ力」は、1位である「電力・ガス」の半分以下のスコアにとなっている。
リーダーシップ力は、社長や危機管理担当役員が、自社の社員をまとめ上げる力である。組織が一丸とならないと、危機対策はうまくいかない。他社で発生した危機事象を、自分ごと化し対策がとれるか否かは、リーダーシップ次第である。
■メディアは社会性、企業はコンプライアンスを重視
今回の調査では、新聞、テレビ、雑誌などの報道関係者177名から回答を得て、危機に直面した企業と、それを取材する側のメディアとの間にある意識のギャップについて定量的に把握した。
企業において発生する可能性のある28項目の危機について、企業が感じる「社会からの批判の強い項目」、メディアによる「関心度が高い項目」として、同じ項目を回答してもらった結果、両者の危機の位置づけにかなり違いがあることが分かった。
そのギャップが顕著に生じ、企業よりも、メディアの関心が高かったのは「国内での大規模災害発生時の事業停止/顧客への危機発生」、「従業員が重大感染症に罹患」、「海外でのテロ・暴動発生時の事業停止/顧客への危機発生」であった。これらの項目は、企業の個別の問題というよりも、社会全体に影響を及ぼす問題であり、両者の視点のずれが浮き彫りになったといえる。
実際に、新型インフルエンザ、東日本大震災、中東や北アフリカの紛争などをめぐっては、個別の企業への影響や講じた対策について数多く報道された。このような社会問題に関しては、企業は前向きに情報開示について検討や準備をしておく必要がある。
その一方で、メディアより企業の関心が高かったのは「反社会勢力との癒着」、「不適切な決算・財務報告」、「談合・独占禁止法違反」などだった。いずれもコンプライアンスに関わるもので、企業の社会的責任を問われる重大な問題だと考えられる。
また、危機発生時に記者会見を開くかどうか、その判断は企業にとっては非常に難しい問題だが、上位の「人的被害がある」(88.7%)、「多発・拡大する可能性がある」(85.9%)、「違法性がある」(74.0%)の3つのポイントが、今後の判断基準の参考となる。さらに4位には「社会的インパクトがある」(68.4%)が続き、その時々に社会的に関心が高い危機内容の場合は、メディアから情報開示を求められる可能性もあり、メディアや世論の動向を踏まえた判断も求められる。