原発事故4年目における風評被害の構造と食と農の再生

CIDIR Report

関谷直也

2015年9月1日

 2015年3月14日、福島県郡山市役所でCIDIRが共催している、福島大学うつくしまふくしま未来支援センター主催の「原発事故4年目における風評被害の構造と食と農の再生」が開催された。
 東京電力福島第一原子力発電所事故から4年が経過し、市場に流通している福島県産農作物については検査が徹底して行われている。平成26年の検査結果をみると米や野菜から基準値を超えて放射性物質が検出されることはなくなった。また、検出限界値をこえて放射性物質が検出されることもほぼなくなってきた。農作物生産過程における吸収抑制対策、全量全袋検査、モニタリングやスクリーニングなど検査体制の徹底が行われている。そして4年間、消費者庁、福島県庁など様々な組織で放射線に関するリスク・コミニュケーション、福島県農産物のブランド化やPRが行われている。これに加え、消費者の放射性物質汚染への関心の低下や不安感の低下などを踏まえれば、風評被害は低減・払拭されてもよいように考えられる。
 だが、福島県産の農産物の生産・販売状況をみると、依然として販売不振が続き、厳しい局面におかれている品目も存在する。「米」を中心として未だ福島県の農作物の流通は回復しているとはいえない。すなわち、風評被害を単に消費者の不安感や購買意欲の問題と考えた従前の対策では風評被害は解決しないことは明らかである。
 このような問題意識にたち、CIDIR特任准教授の関谷は福島大学うつくしまふくしま未来支援センターの小山良太センター長(農業経済学)、福島大学経済経営学類の中村陽人准教授(消費者行動)、則藤孝志特任准教授(フードシステム)らとともに、福島県、郡山市、特定非営利活動法人超学際的研究機構の協力の下、調査研究を実施してきた。昨年度、調査研究としては、「福島県および近県および大消費地における消費者のアンケート調査」「市場、仲卸、納業者など流通業者に対するヒアリング調査」「学校給食の関係者に対するヒアリング調査」を行った。
 本調査研究としては、風評被害の主たる原因の1つである「流通」そのものを研究の中核と据えることとした。そして市場、仲卸、納業者など流通業者へのヒアリング調査を行う過程で、「20代~30代の女性層の不安が高い」「西日本の人の不安感が強い」など消費者に対する誤解が多いこと、また流通業者の間で「福島県産の農作物は学校給食として扱いづらい」「教育委員会の方針で、福島県産の農産物は納入しない」という誤った認識が共有されていること、そして、震災直後の基準値が未だ使われている「給食」が大きなボトルネックとなっていることが確認された。
 本シンポジウムでは、これら東京大学・福島大学の共同研究を踏まえて、「風評被害問題」の解決に向けて、「生産・流通」「検査・費用負担」「消費者心理・情報発信」などに焦点を絞り、いま取組むべき課題と今後のあり方を議論した。CIDIRの関谷直也特任准教授が「風評被害の構造と5年目の対策」と題して報告し、則藤孝志「原子力災害後の農産物地場流通の実態と地産池消の回復に向けた課題」、中村陽人「消費者は今、どう考えているのか―消費者調査による購買行動と態度の分析」、岡敏弘(福井県立大学教授)「放射能汚染食品のリスク評価と規制・対策の費用便益分析」などの報告が行われた。4名からの報告の後、フロアを交えての総合討論が行われ、食品の安全性を示す科学的なデータを発信し続ける重要性、地域ぐるみのコミュニケーションの場の企画など、これからとるべき対策について議論が深められた。
 この調査研究を踏まえて、シンポジウムに先立って、関谷直也特任准教授が品川萬里郡山市長に「風評被害払拭」に関する提言書を手交した。福島大学との共同調査の結果、給食食材納入に関する規制が農産物市場の流通においてボトルネックになっていることを明らかにし、この解決が重要と提言した。
 なお福島大学の研究者らとの調査研究は継続しており、この①研究成果の県内への啓発、②県の委員会等での研究成果を踏まえた検査体制見直しや情報発信に関する提言、③給食、事業者におけるアンケート調査の分析などを行っているところである。