緊急地震速報の予測震度を検証する
CIDIR Report
目黒公郎
2015年6月1日
はじめに
気象庁は、2007年10月1日より緊急地震速報(EEW)の一般配信を開始した。EEWとは、地震動のP波とS波の伝播速度の差を利用して、被害の主因となる激しい揺れ(S波)が地域を襲う前に、予想される地震の揺れの強さや猶予時間などの周知を試みるものである。地震の規模(マグニチュード)が大きく、比較的遠地で発生した地震の場合に、これが実現する可能性が高く、人的被害をはじめとする各種の被害の軽減に役立てることができる。
ところで、EEWのしくみには震源予測や震度予測などのステップがあるが、その中で震度予測の手法はEEWのサービス開始時から技術改善が行われておらず、その精度の十分な検証も行われていない。そこで本研究では、過去にEEWが発表された各地での予測震度と実際に観測された震度の差を求め、震度予測手法の精度分析を試みた※。
対象とする地震と観測点について
対象とする地震は、2009年1月から2013年6月までの間に発生した地震のうち、次の条件に該当する234地震とした。第一に揺れが大きいこと(K-NET観測点で、最大震度が計測震度3.5以上)、第二にEEWが発表されたこと(少なくとも1回以上の予報。警報が発表されたか否かは問わない)、第三に震源予測の空間的精度がよいこと(最終報における予測震源の位置(緯度、経度)が0.1度の単位で確定震源と一致する)である。
対象とする観測点は、対象期間内に休止中であった観測点等を除く、全国1,029ヵ所のK-NET観測点とした。
分析手法と分析結果
各地震の震源情報を用いて、気象庁規定の手法に従い、まず全対象観測点における予測震度を算出した。震源の情報としては、気象庁震度データベースに記載された震源情報(以下、「確定震源」)と予報の各報において発表された予測震源情報(以下、「予測震源」)の値を用いた。算出した予測震度からK-NETでの観測震度を引き、その差を誤差として、その分布を調べた。ただし、各地震においてK-NET観測震度が0.5以上であった観測点を対象としている。
まず、確定震源を用いて算出した結果を下図に示す。対象地震数は234、データ数(=地震数×各地震における対象観測点数)は26,894である。横軸に誤差、縦軸にそれぞれの誤差に該当するデータ数をとり、誤差ゼロを基準として、それよりも左側(誤差がマイナス)は「過小評価(予測震度が観測震度よりも小さい)」、右側(誤差がプラス)に「過大評価(予測震度が観測震度よりも大きい)」と表記した。
図より、誤差の分布は正規分布に沿った形をしていることがわかる。しかし最頻値が+0.6であることから、現在の震度予測手法は実際(K-NET観測震度)に比べ、大きめの震度を予測(過大評価)していると言える。なお、対象の地震を、地震規模や震源深さで分類しても、いずれも過大評価の結果となった。
次に、予測震源を用いた結果を、初報、警報(警報が発表された地震のみ)および最終報に分け、それぞれの誤差を求めてその分布を分析した。紙面の制約から図表による説明は他の機会に譲るが、初報、警報、最終報のいずれも、一致率は5%未満で、最終報で震源の位置が正確に求められている地震であっても、正確な震度予測は非常に難しいことがわかる。各報の特徴をまとめると、初報は最終報に比べて分布の山が低く分散が大きい。最頻値は0であり、過大評価が5%程度多い。警報は、最終報に比べてやや分散が大きく、最頻値は0.5で全体の73%が過大評価であった。最終報は、確定震源による分布とほぼ同様で、約6割が最頻値±0.5以内に含まれ分散は低いが、最頻値は0.6で、警報以上に過大評価(全体の76%)が多い。
計測震度0.1単位で利用開始震度を設定できる高度利用者にとって、予測震度の誤差が平均0.6も過大評価傾向であるという本研究の結果は、EEWをより緻密に活用する上では無視できない値である。安全側とはいえ、空振りにつながる過大評価が続けば、EEW全体に対する信用の低下につながりかねない。震度予測手法の改善を期待する次第である。
参考文献
西口綾佳、緊急地震速報の震度予測精度の検証と新しい発表基準の提案、社会基盤学専攻修士論文、2015年3月