急がれる連携のとれた地下街浸水対策
特集:大規模水害に立ち向かう
田中淳
2015年6月1日
最近、渋谷地下街に関係する事業者や行政の方々と話をする機会があった。渋谷の地下利用は、昭和32年に店舗と公共通路からなる渋谷地下街が開設され、その後も平成25年3月には東横線と東京メトロ副都心線と相互乗り入れが開始されるなど発展を遂げてきた。現在も、大規模再開発が進んでおり、今後もより大規模な地下空間が形成されていく計画となっている。他方、図に示した立体マップでも見てとれるように、渋谷は地名が示すとおり、周辺の地域と比べて低地であり、水が集中しやすい。加えて、多くの事業者が関連しており、個々の事業者が浸水対策を実施しても、地下街への浸水は最も対策の遅れている箇所に依存してしまう。したがって、個々の事業者のBCPだけでは限界があり、多くの事業者の連携が不可欠となる。
実際に情報共有の必要性が指摘された浸水事例として福岡市の御笠川での水害事例がある。平成11年に、1時間に77mmを記録した大雨が降り、福岡市中心部を流れる御笠川が溢水し、博多駅周辺のビルの地下に流れ込み、従業員1名が亡くなっている。日本における不特定多数者が利用する地下空間での初めての死亡事例となった。当時の状況から、開店に備えた仕込みをしていた従業員が死亡したと推定される時刻には、雨は小降りになっており、いったん水位は下がったあとに、水位は再び上がったという。つまり、この事例から学ぶべきことは多いが、そのひとつが雨の降り方と水害とは時間差があった点である。御笠川の溢水情報や周辺のビルの浸水情報が共有されていれば、人的被害は防げた可能性が指摘されている (廣井、2001)。八重洲地下街などで、関連する事業者や行政が参加する協議会が作られ、連携を目指す動きがあるのはこのためである。
このような協議会を設置する上で、以下の事項に配慮すべきと考えている。
第1に、関連する対策主体が計画や対策実施を共有するうえで、計画のベースとなる浸水予測や対策を開始するタイミングが必要となる。しかし、局所的な集中豪雨では、現在の気象予測の技術水準では予測が難しく、止水板の設置や避難など対応行動に許される時間的余裕は限られている。解析雨量や短時間予報など予警報以外の気象情報や周囲の道路等の冠水状況などを活用して、実効性を検討する必要がある。
第2に、避難誘導先は関係する事業者だけでは解決できないことも十分に予想されるので、市町村や周辺の事業者との調整が必要となる。とくに地下街の場合には、乗降客の多い駅を抱えており、周辺の事業者がそれぞれの顧客をとどめ、駅に滞留させないなど広い範囲で連携をすることが求められる。
第3に、避難の順番を検討・共有しておく必要がある。地下の深い階から避難をさせるためには、その上層階が空いていないと難しい。物理的な空間や混乱防止の面から、事業者の避難誘導について優先順位と誘導先を、具体的なシミュレーションを行うなどして合意しておくことが求められる。
全国的に見ると、地下街は、平成25年3月末時点で78地下街ある。平成26年に、名古屋市市営地下鉄東山線の名古屋駅が浸水し、運休した事例は記憶に新しい。また、特別警報が発表された平成25年台風18号でも、安祥寺川の氾濫水が京阪電鉄京津線の線路を伝い地下鉄御陵駅のトンネルに流入し、京都市営地下鉄東西線が4日間運休となっている(平成25年度水害統計から)。仮想の話ではなく、現実に起こりうる災害である。浸水対策の連携を、できるところからでも進めていかなければならない。