取材からみえた特別警報の課題
特集:特別警報ー課題と改善の方向性ー
NHK解説委員 山崎登
2014年12月1日
去年の8月に始まった特別警報
気象庁が発表する特別警報は、従来の警報の基準をはるかに上回る大規模な災害が発生する危険性が高まった際に、最大級の警戒を呼びかけるために、去年
の8月に導入された。対象は気象分野では、大雨、暴風、高潮、波浪、大雪、暴風雪の6種類で、具体的には50年に1度というような、つまりは生涯に一度か二度といった大雨などが観測されたり、予測された際に発表される。背景には、かつてはなかったような猛烈な雨が各地で降るようになり、大きな災害が起きるようになったことがある。去年の8月1日から今年の8月11日までの間に、1日の降水量が歴代1位の記録を更新した地点は全国で1294カ所にのぼっている。
その一方で市町村の避難勧告の発表の遅れや住民の避難が進まないケースが相次いだ。そこで気象庁の危機感を自治体や住民に伝えることを狙いとして設けられた。
議論になった大雨の特別警報
特別警報が最初に議論になったのは、39人の死者・行方不明者をだした去年10月の伊豆大島の土石流災害の時だ。記録的な大雨となった伊豆大島に対して、気象庁は大雨警報に続いて、土砂災害警戒情報や記録的短時間大雨情報を発表したが、特別警報は出さなかった。
それは特別警報が都府県程度の広がりで発表されることになっているからだ。伊豆大島に降った雨は数十年に一度の値に達していたが、他の島や東京23区では基準に達する雨が降らず、地域的な広がりがないとして発表されなかった。離島については、基準を見直すべきではないかと議論が交わされた。
議論になった大雪の特別警報
二度目の議論は今年の2月、首都圏や山梨県などが記録的な大雪に見舞われた時だ。甲府市の積雪は114㎝に達し120年間で最も多くなり、山梨県では5人が死亡し、150世帯が孤立した。関東甲信地方の18地点で観測史上1位を更新したが、大雪の特別警報は発表されなかった。
南岸低気圧による太平洋側の大雪は想定外だったと説明されたが、雪に慣れていない地域の大雪の被害の大きさや混乱をみると、南岸低気圧による太平洋側の大雪も特別警報の基準を作るべきだと議論があった。
議論になった台風の特別警報
三回目の議論は今年の7月、台風8号が接近した際、初めて台風の特別警報が出された時だ。当初、気象庁は台風が猛烈な勢力に発達すると予測し、宮古島や沖縄本島地方に波浪や暴風の特別警報を発表した。これを受けて18の市町村が約59万人に避難勧告を出した。しかしその後台風の勢力は弱まり、特別警報は解除され、16の市町村が避難勧告を解除した。
ところがその直後から沖縄本島付近で急激に雨が強まった。台風の特別警報の解除から5時間後、今度は大雨の特別警報が発表され、名護市と宜野湾市は避難勧告を出し直した。名護市は解除から2時間後の再発表だった。この混乱に気象庁も特別警報の周知が十分ではなかったと記者会見した。
わかりにくい特別警報
今年の9月19日、三重県は8月の台風11号に伴って発表された特別警報で市町村に混乱が生じたとして、特別警報の改善を求める提言を提出した。特別警報は府県程度の広がりで発表されることから、特別警報が発表された後に出る警報はすべて特別警報になるが、三重県の8つの市と町では注意報がいきなり特別警報に切り替わった。このため自治体の態勢の準備などに混乱が生じた。三重県は市町村単位で発表することや事前に自治体に連絡するなど、きめ細かい情報提供が必要だとしている。住民にとっても特別警報はわかりにくい。気象庁が去年の11月に、全国の20歳以上の男女2800人にインターネットでアンケート調査をしたところ、「とるべき行動を具体的に言って欲しい」という答えが76%もあった。災害時の情報は情報を出す側と受ける側に、共通の知識や認識がないと防災に役立てることが難しい。どういう時にどういう情報が出て、それが出たらどうしたらいいかが情報を受け取る側がわかっていないといけない。まして災害時の情報は、情報のあるところからないところへ、専門的な知識があるところから少ないところへ、さらには危機が迫って余裕がないところへ伝えられる。
したがって情報をわかりやすく使いやすいものにする責任は、情報を発表する側に求められる。気象庁はこの一年あまりに発表した特別警報を検証し、もっとわかりやすく、役に立つ情報にしていく必要があると思う。